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Apple、Amazon、Microsoftのハードウェア戦略を俯瞰する(2/3 ページ)

3社の発表イベントを全て取材した筆者が、プラットフォーマーのハード戦略を分析。

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「数でトップにならなくてもいい」「自社の理想を体現」するMicrosoft

 これと好対照なのがMicrosoftだ。

 いや、Microsoftが小さな会社、というわけではない。Microsoftは相変わらず世界最大級のソフトウェア会社であり、その戦略の凄みはソフト(現在はクラウドが中心だが)にある。

 一方で、ハードウェアを売る企業としてのMicrosoftは、まだ「ハードウェアの巨人」とはいえない。PCの巨人は、HP、Dell、Lenovo、ACERにASUS、そしてAppleだ。特にHP、Dell、Lenovoの「3トップ」は、3社だけで世界のPCの半数以上を売り上げている。Microsoftは、これらの巨人達のさらに下に、ようやく顔を出し始めたところだ。

 だが、Microsoftとしてはそれでいいのだ。他社はMicrosoftにとって長年のパートナーであり、決して敵ではない。だが、Microsoftが理想とするPCの姿を提示するには、生産量やコスト、顧客ニーズといった部分に「引っ張られすぎる」トップメーカーだけに任せておくわけにはいかない。そのためのハードウェア事業であり、その方向性は「カリスマ性」を示すことに他ならない。

 MicrosoftのSurface事業を率いるパノス・パネイ氏はユニークな人物だ。誤解を恐れずにいえば「ジョブズ的」な人である。コストがかかっても、多少いびつな部分があっても、「Surface」というブランドの製品を強く特徴があるものにすることを大切にしている。

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Surface事業のリーダーであるパノス・パネイ氏。筆者が現在取材で会う人の中でも、もっとも「カリスマ的」な人物だと感じる

 今回「2画面」Surfaceを発表したのも、プロダクティビティツールとしてPC(広義のものであり、WindowsがOSであるもの、という話ではないのに留意)のあり方に一石を投じ、「Microsoftのプロダクティビティツールをより良く使ってもらうにはどういうことをすべきか」という観点から生まれたものだ。

 だから「デバイスドリブン」ではない。Surfaceには驚くほど「まだ生産が始まったばかりの特殊なデバイス」は採用されていないのだ。

 折り曲げられるOLEDではなく薄型の液晶を2枚使ったのは、その方がコストと堅牢性、用途の3点で有利だからだ。だが液晶で理想的なデバイスを作るには、特殊なヒンジを含めた構造物の設計と生産が必須になる。それは「技術的に困難」なのではなく「やるかやらないか」の世界に近い。

 PCやスマートフォンは「デバイスドリブンな事業」と言われる。ディスプレイやSoC、イメージセンサーなど、新しいデバイスが出てくるとそれを核に商品が企画されることが少なくない。分かりやすいし、確かにそれで価値も生まれるからだ。調達戦略上、その方がコスト的に有利、という点も大きい。

 だが、MicrosoftはSurfaceで、一貫してそういう作り方を採らない。「こういうスペックの部材が欲しい」というところから組み立てている。だからオリジナルスペックのパーツが意外に多い。ウリもデバイスでなく「機構」「デザイン」だ。それができるのは、Microsoftが潤沢な資金をもっており、余裕をもった形で事業を回せるからに他ならない。

 PCメーカーの中でシェアトップを目指す必要がないので無理に低価格なモデルを作ることもせず、「一定の価格でちゃんと売れる」モデルだけを作ろうとする。そしてその結果、「Surface」という特異なブランドが形成されていく。これが、Microsoftのハード事業の特徴であり、立ち位置だ。これ以上一気に数を増やそうとすると崩れる、微妙なバランスの上に成り立っている。

 そうしたやり方を許容することこそ、サティア・ナデラ体制の特徴といえるかもしれない。

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