NECがアニーリング方式量子コンピュータに傾倒する理由 国産マシンは23年に実用化(2/2 ページ)
日本電気は量子コンピュータに関する活動を推進する部門「量子コンピュータ推進室」を20年1月に設置する。「量子アニーリング方式」の量子コンピュータを開発に向け、先駆者のカナダD-Wave Systemsと協業を検討。NEC製の古典マシンを使ったアニーリングのシミュレーションも。NECが量子アニーリングに傾倒する理由とは。
ただ、ベクトルコンピュータ上で実行するシミュレーションアルゴリズムの計算速度は「従来のシミュレーテッド・アニーリングの300倍以上」としているが、10万変数まで計算できる他社のアルゴリズムに比べると速いとはいえない。
例えば、東芝の「シミュレーテッド分岐アルゴリズム」(SB)はGPUを8台つなぐことで10万変数・全結合問題を数秒で解くとしている。日立の「モメンタム・アニーリング」はGPU4台を用いて1秒未満で解けるという。これに対し、NECのベクトルコンピュータは10万変数の問題を解くのに数十分かかるとしており、他社に比べて100倍程度遅い。
デモンストレーションでは1000変数の問題を0.7秒で解いていたが、東芝SBは2000変数問題を0.5ミリ秒で解いているため、やはりNECのアプローチが速度面で優位だとはいえなさそうだ。
速度で他社には及ばないものの、1ボードに10万変数を搭載できることから、ボード数を増やせば比例して扱える変数は増える。同社はベクトルコンピュータで100万変数まで扱えるようになることを目標にしているという。
こうした大規模な問題は、量子アニーリングでは当面の間計算できない(D-Wave Systemsの次世代モデルでも約5000量子ビット)。同社は、問題サイズが小さくて計算速度が求められる問題には国産量子マシンを、サイズが大きくて計算速度があまり求められない問題にはベクトルコンピュータをと、解決したい問題に対して適材適所で対応したい考えだ。
なぜゲートではなくアニーリングなのか
NECは現在の量子コンピュータの発展に少なからず貢献している。量子ビットとして現在主流の「超電導量子ビット」を1991年に世界で初めて実現したのは、当時NEC主席研究員の中村泰信氏(現東大教授)と蔡兆申氏(現東京理科大教授)だった。
米IBMやGoogleは、超電導量子ビットを用いて量子ゲート方式の量子コンピュータを研究開発している。中村教授も理化学研究所チームリーダーとして、100量子ビットの量子ゲートマシンの開発を進めている。
そんな中で、NECが量子ゲートではなく量子アニーリングに注力する理由は何か。同社の白根昌之研究部長は、「ビジネスとしての展開を考えると、実用化が始まっている量子アニーリングの方が適している」と話す。
「もちろん、純粋に学術的に研究するなら量子ゲート方式は大変興味深い。しかし現在最大でも50〜100量子ビット程度でエラーもある。このマシンでできるのはある種の近似計算で、今のところできることは量子アニーリングとあまり変わらない。量子ビット数のスケールにも、100〜200量子ビット辺りに壁があるのではないかと考えている」(白根研究部長)
「であれば、すでにD-Wave Systemsが2000量子ビットを実装し、実用化も進んでいる量子アニーリング方式の方が、5〜10年の間は事業展開しやすいのではないか」と見通しを語った。
また、量子ゲート方式についても可能性は捨てていない。
「量子ゲートが優位になってくるとしても、量子ビットの技術は8割方同じ。量子ゲートの研究者とも情報交換を行っているので、すぐにキャッチアップできると考えている」
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