本格的なマルチクラウドの時代は到来するのか? 人気が出そうなSaaSは? 2020年のクラウド業界動向を占う(2/3 ページ)
2019年は各ベンダーが、マルチクラウド向けのサービスを多くリリースした。20年はこの流れがさらに加速し、企業が複数のクラウドを使いこなすようになるのか。本記事では、19年にクラウド業界で起きたトピックを振り返りつつ、20年の業界動向を予測していきたい。
マルチクラウドは本当に普及するのか?
その他のハイブリッド、マルチクラウドを実現するサービスとしては、各パブリッククラウド・ベンダーが提供するKubernetesベースのプラットフォームがある。米Googleは、オンプレミスでもGCPでも、他社のクラウドでも動くKubernetesベースのプラットフォーム「Anthos」を19年4月に公開した。Microsoftも19年11月に開催した開発者向けイベント「Ignite」で、ハイブリッド、マルチクラウド環境をAzureからコントロールできるようにする「Azure Arc」を発表している。
これらの仕組みや、前述のOpenShift、Project Pacificなどを活用すれば、ユーザー企業はさまざまなアプリを、オンプレミス環境と複数のパブリッククラウド環境の間で自由に移行できることは確かだ。
しかし、アプリだけを動かせても、アプリに保存されている膨大なデータは簡単に移動させられない。また、アプリの監視やセキュリティ、認証、バックアップの仕組みなども含めて、異なるパブリッククラウド間で自由に移動させられなければ、本番環境としてマルチクラウドを採用するのは難しい。
そのため、Kubernetesベースのマルチクラウド・プラットフォームが出そろったからといって、アプリケーションを異なるクラウドサービス間でダイナミックに移動させ、利用できるマルチクラウドが広く普及しているわけではない。
この原稿を執筆している19年末の段階では、アプリのバックアップデータを取得し、普段は使っていないパブリッククラウドに保存しておき、障害時や大規模な災害が発生した際にだけそれを使い、異なる環境で一時的に復旧させる――という利用形態が現実的だ。
だが、複数のパブリッククラウドを利用し、災害対策などのための冗長構成を取ろうとすれば大きなコストがかかるのも確かだ。1つのクラウドサービスの中で、多層的に冗長化したほうが安価で済むし検証なども楽だ。いつ起こるか分からない災害のためだけに、他のパブリッククラウドにバックアップを取得しておく予算はなかなか下りない。注目を集めるマルチクラウドだが、企業が実際に採り入れるにはまだまだ時間がかかりそうだ。
こうした課題を踏まえ、一部のバックアップベンダーは、複数のパブリッククラウドを活用して効率よくバックアップを取れるサービスを提供し始めている。
例えば、スイスのVeeam Softwareや米Veritas Technologiesのソリューションを利用すると、(1)本番環境から、普段は使っていないパブリッククラウド上にバックアップを取得する、(2)取得したバックアップに対して簡易的にリカバリーを行い、常にデータを参照可能な状態にしておく、(3)バックアップデータを日常的にアナリティクスなどのデータソースとして使ったり、本番環境がダウンした際のリカバリー環境として利用したりする――といった運用が可能になる。
「どうしてもマルチクラウドを試してみたい」という場合は、まずはこうした構成を検討すべきだろう。
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