ソニーはクルマで何をしたいのか?:CES 2020
完成度の高いコンセプトカーを披露したソニーは、クルマを作ろうとしているのか? 実は既存のセンサーや技術を用い、クルマを安全面やエンターテインメントの分野で進化させるのが狙い。
米国ラスベガスで1月7日(現地時間)に開幕した「CES 2020」に先駆け、ソニーがオートモーティブ関連の先端テクノロジーを詰め込んだコンセプトカーを披露して注目を集めた。6日のプレスカンファレンスでステージに登場したコンセプトカーは、見た目の完成度が非常に高く、自走も可能だった。ソニーはオートモーティブの分野で何をしようとしているのか。
ソニーはこれまでにも自動運転車など次世代のモビリティに向け、CMOSイメージセンサーやソリッドステート式LiDAR(光による距離測定センサー)などを組み合わせ、自動車の周囲360度にある物体を検知、早期の危険回避を支援する「Safety Cocoon」コンセプトを提案してきた。
6日のプレスカンファレンスでは、ソニーの社長兼CEOである吉田憲一氏が登壇。モビリティの安心・安全からさらに一歩進み、快適さやソニーが得意とするエンターテインメントの領域に踏み込むプロジェクトを「VISION-S」と命名し、推進していく考えを示した。
集まった人々の目を奪ったコンセプトカーには、Safety Cocoonのコンセプトを実現する各種センサーの他、車内外の人や物体を検知・認識し、ジェスチャーによる直感的なインフォテインメントシステムの操作を可能にするToF(Time of Flight:物体との距離を測定する技術)センサーなど、合計33個のセンサーを導入したという。
車体の製造はカナダの自動車部品メーカーであるMagna Internationalが担当した。ステージでは今回のコンセプトカーの開発に関わったパートナーとして、NVIDIAやQualcomm、BOSCH、Continentalなどの名前も紹介された。
車内で立体音響技術「360 Reality Audio」
ソニーの吉田社長は、VISION-Sが提供するエンターテインメントの一つとして、2019年のCESで発表した独自のオブジェクトベース立体音響技術「360 Reality Audio」を挙げた。360 Reality Audioは当初、ホームオーディオやスマートフォン、ヘッドフォンの組み合わせによるポータブルオーディオで楽しむ音楽体験として紹介されていた。日本国内でも19年12月からAmazon.co.jpのスマートスピーカー「Echo Studio」とAmazon Music HDで配信される360 Reality Audioの音源を組み合わせ、楽しめる環境が整ったばかりだ。そして今回のCESでは、次のステージとして車載エンターテインメントへの展開に初めて言及した形となる。
360 Reality Audioの音源はエンコード方式にオープンフォーマットの「MPEG-H 3D Audio」を採用している。再生時に音源のオブジェクトデータを解析し、スピーカーシステムの構成に合わせた自動レンダリング処理が行われるため、原理的には家庭のリビングルームや車内といった環境を問わず楽しめるものと考えられる。
ただし、ソニーの佐々木信氏(ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ V&S事業本部 オートモーティブ・ビジネス部門 設計部 統括部長)は、「走行時のノイズを含め、車内のリスニング環境に合わせて独自に技術のチューニングを練り上げていく必要がある」と話す。ソニーブースでは、車両の中で試聴デモンストレーションも行っているが、ダッシュボードや各シートに内蔵されたスピーカーのレイアウトについては規格化されたものではない。今後、技術的に内容を詰めていく段階にあるようだ。
この他、カンファレンスのステージでは、フロントシートの前方にパラミックススクリーンを配置してさまざまなコンテンツを直感的な操作で楽しめるデジタルコックピットのコンセプトも発表された。
今回、完成度の高いコンセプトカーがCESのステージに突然出現したことで、「ソニーが自動車産業への進出を宣言した」という受け止め方もあるようだが、実際はソニーが得意とするセンサーやエンターテインメントの分野に関わる技術を進化させるため、戦略的コンセプトを発表した。今後、ソニーの技術が他社の技術とどのように絡み合いながら進化し、形を変えていくのかに注目すべきだろう。
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