大学の「有機化学」を学習できるスマホアプリ 自主制作した教授の狙い(2/2 ページ)
大学の有機化学の講義に、自主制作したスマホ学習アプリを用いている教授がいる。東京農業大学の松島芳隆教授に、アプリを開発した背景などを聞いた。
学生の反応は「最初は高いと思った」
松島教授のアプリは、講義を受ける上で必ず買わなければいけないというものではないが、教科書指定としてシラバス(講義・授業計画)には載せているという。
「2018年以前は購入を推奨するだけで教科書にはしていなかったんです。ただ勉強してほしい人に限って教科書は読まない、アプリも買わない。基礎が分からないと試験もどうにもならないので、教科書に指定することにしました」
600円というアプリの価格は、学生の目にはどう映るのか。
講義後に無記名のアンケートを行ったところ、「600円という価格は最初は高いと思った」という声が聞こえてきたという。
「今の学生は、スマホゲームには課金しても有料のアプリを買うのはハードルがあるみたいですね」と松島教授は受け止めている。
しかし、買ってくれた学生からは「分かりやすかった」という声も。「講義の初めから買って使っているというよりは、試験が目前になって『こんなものがあるらしい』と試験対策に使っている学生さんもいるみたいです」
松島教授の研究室に所属している修士課程1年の小川由香子さんも、アプリユーザーの一人だ。
「最初は高いと思ってスルーしていたんですが、商品のキャンペーンでApp Storeで使えるコードが当たったので、そのポイントで買いました」と、価格感については正直な感想を話す。
「院試のときに復習に使いました。教科書だけだと分からない矢印の動きが分かって、紙よりも覚えやすかったです。移動中に気軽に勉強できたのもいいですね」(小川さん)
開発費は回収済み 海外やTwitterから売れることも
気になるのは、アプリを自主制作した上でかかった費用だ。アプリ開発自体は外注したもので、「外注費は自分のお小遣いでなんとかしましたが、有料で販売しているため、すでに回収はできました」と、具体的な費用や販売数について具体的な数字は伏せたものの、開発費のペイはできていると松島教授は語った。
購入のほとんどは日本からだが、英語に対応しているためか、米国など海外からの購入もたまにあるという。
Twitterで宣伝していることもあり、時折有名な人がリツイートしてくれるとそのタイミングで売上が増えることもあるという。学生向けに作ったアプリではあるが、海外やネットなど、思わぬところで反響を広げている。
現代の小中学生の学習環境では、教材にPCやタブレットを使用する事例はもちろんのこと、企業や個人がYouTubeで配信している講義コンテンツを見て学ぶというスタイルも増えてきている。
大学の講義も、講師がITを用いながら工夫していくことでだんだんと変わっていくのかもしれない。
【修正履歴:2020年1月20日午後5時 松島教授の指摘に基づき、覚えてほしい単語の例など一部表現を修正しました】
関連記事
- 理研、創薬専用スパコン開発 「RISC-V」アーキテクチャ採用、10万原子の挙動再現
理化学研究所は、水やタンパク質など分子の動きのシミュレーションに特化した専用計算機「MDGRAPE-4A」を開発。タンパク質と薬剤、水分子などを合わせた計10万個の原子の動きを、現実的な時間で解析できる。 - 光を反射しない「究極の暗黒シート」、産総研が開発 可視光を99.5%吸収、ゴム製で量産可能
ほとんど光を反射せず、ほぼ全て吸収してしまう「究極の暗黒シート」を産業技術総合研究所(産総研)が開発した。どんな仕組みなのか。 - 「粒子加速器」を自作した猛者現る 「リビングの片隅で組み立てた」──工学素人の“理論屋”が一から試行錯誤
電子や陽子などの荷電粒子を加速する「加速器」を自作した高梨さんに話を聞いた。工学系の出身ではないため、さまざまな試行錯誤を繰り返しながら加速器を作ったという。 - 葉っぱの細胞を単独で幹細胞に戻す遺伝子発見「全ての生物で初」
1つの遺伝子発現で、植物の分化細胞が幹細胞へ変化することを確認できた。単独遺伝子の発現で幹細胞化するのを確認できたのは全ての生物で初だという。 - 1円玉より軽い昆虫型ドローン、太陽光発電で単独飛行実現 昆虫の推力効率に匹敵
電力から得られる推力の効率はハナバチなどの昆虫に匹敵。研究チームは「持続的に単独飛行できる飛行ロボットとしては世界最軽量だ」と話している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.