AIとドローンで在庫管理、シフト表を自動作成 知られざる小売業界のAI活用術:よくわかる人工知能の基礎知識(4/4 ページ)
接客業務や在庫管理など、小売・サービス業に関する国内外のAI活用事例を紹介する。
例えば、店舗スタッフのシフト管理はAIの得意領域だ。シフトを組むには、来客数の見込み、スタッフのスキルや出勤状況などの情報が必要だが、AIを使えば過去のデータから来客数を予測でき、シフトを自動作成できる。さらに店舗内のカメラ映像から、顧客の年齢や性別といった属性や、店舗内での行動まで把握できれば、それらの情報も人員配置に生かせるかもしれない。
店舗内の設備管理にもAIを活用できる。休みなく稼働する設備や機器類は、予期せぬタイミングで故障することがある。製造業では、IoT技術で得られた設備・機器類の状態に関するデータを解析し、故障を予知して手を打つ「予防保全」が行われているが、同じことは実店舗内などでも行えると考えられる。
最後に、管理の高度化に関する米スターバックスの例を挙げておこう。
同社は自社内で独自AIプラットフォーム「Deep Brew」を開発し、さまざまな管理業務に役立てていることを公表している。Deep BrewはMicrosoft Azure上に構築されたプラットフォームで、社内で集めたさまざまなデータを学習し、顧客の好みや店舗オペレーションに関する分析をしている。
例えばスターバックスでは、Mastrenaというエスプレッソマシーンの展開を進めているが、この機械はIoT技術によって使用状況を遠隔監視できるようになっている。そのため、どの商品がどれほど作られているかをリアルタイムで把握できるという。そうしたデータをDeep Brew上で分析することで、需要の予測やそれに基づく在庫補充の計画立案、さらにはMastrena自体の故障予測などを行っているそうだ。
面白いのは、店舗でコーヒーを入れる作業を担当するバリスタの配置計画まで担当している点だ。Deep Brewは30分間隔で今後必要になるバリスタの人数を予測し、実際に配置を行う担当者の意思決定を支援している。先ほどAIはシフト管理が得意と述べたが、シフト作成担当者の強い味方になってくれるだろう。
こうした取り組みを受け、スターバックスはコーヒーを売る会社ではなく、高度なデータ分析を行う会社だと評する声も上がっている。今後多くの小売・サービス業の企業が、同じような道へ進んでいくと考えられる。
Amazon Goなどに象徴されるように、一般の消費者が顧客となる小売・サービス業では、私たちの目から見ても先進的だと分かりやすいAI導入事例が生まれようとしている。AIが今どこまで実用化されているのか、一種のショーケースとしてこの業界を追うのも面白いだろう。
著者プロフィール:小林啓倫(こばやし あきひと)
経営コンサルタント。1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院地域研究研究科修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米Babson CollegeにてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』(ダン・アッカーマン著、白揚社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP社)など多数。
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