米軍の教育でもAIが活躍 「アダプティブ・ラーニング」の可能性:よくわかる人工知能の基礎知識(4/4 ページ)
現在、教育現場ではどのようなAI活用がされているのか。国内外の事例を紹介する。
プライバシーやバイアスの問題も
こうした教育のイノベーションが期待される一方で、教育分野にAIを導入する際の懸念も出てきている。中でも、プライバシーに関する問題には多くの指摘がある。
もちろん教育分野におけるAI活用においてもプライバシーに対する配慮はなされており、学習者本人も気付いていないような個人的な情報(集中力が長続きしない、特定の論理的問題を苦手とするなど)が、秘密裏に第三者と共有されるようなことはない。
一方で、就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが、学生の「内定辞退率」を計算し、それを学生に知らせないまま企業に提供するという事件が起きたことは記憶に新しい。教育や学習に関する個人の情報も、その人物が関係する企業や団体にとって極めて重要な知見となり得る可能性があるため、同様の事件が再発しかねないという前提でルール整備を進める必要がある。
バイアスの問題も、AIを教育に応用する際に大きな課題になると予想されている。例えば、進路指導をするAIが登場すれば、そうしたAIの多くは過去のデータに基づいて判断を下すことになる。
仮にそのAIが参照したデータに「女性の卒業生の多くが進学を諦めた」という傾向があったとしたら、今後の女子生徒にも進学を諦めるようアドバイスするようになるかもしれない。この点についても、米Amazon.comが開発した人材採用支援AIが女性差別的な性質を帯びてしまった(これまで女性の採用が少ないというデータに基づいて学習したため)という実際の事件が発生しており、現実的な問題となっている。
これを防ぐには、企業内でのAI活用と同様に、教育現場におけるデータ収集の量と質を向上させる必要がある。だが、そもそも高度なAI活用が教育現場でどこまで可能かという問題もある。教師や関係職員が適切なAIリテラシーや技術的知識を持ち、十分な運用が行える技術インフラが整備されるまで、一定の時間とリソースが必要になるだろう。仮に公的な支援がなかったとしたら、これらの実現は難しそうだ。
実際に国連教育科学文化機関(UNESCO)は、19年に発表したワーキングペーパー「Artificial intelligence in education: challenges and opportunities for sustainable development」(教育における人工知能:持続可能な開発のための課題と機会)で、AIの教育分野での活用における課題として「質の高いデータシステムの開発」「AIを活用した教育に向けた教師の育成」「データの収集、使用、普及における倫理と透明性への対処」を挙げている。たとえ先進国であったとしても、これらに有効な対策を行うには時間がかかるはずだ。
教育は、国にとっても将来の経済力を左右する重要な問題だ。再び数百年が経過しても、寺子屋スタイルから大きな変化はなかった――ということのないよう、この分野で官民の積極的な取り組みが行われることを期待したい。
著者プロフィール:小林啓倫(こばやし あきひと)
経営コンサルタント。1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院地域研究研究科修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米Babson CollegeにてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』(ダン・アッカーマン著、白揚社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP社)など多数。
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