IIJの老舗クラウド「GIO」は、国内市場で存在価値を示せるか? AWSやAzureとの戦い方を問う:国内クラウドベンダーの生存戦略(2/2 ページ)
IIJは約10年間、クラウドサービス「IIJ GIO」を提供している。だが、この10年間は外資系クラウドベンダーの伸びが著しく、AWS、Azure、GCPが国内市場で大きなシェアを獲得した。IIJ GIOは今後、国内市場でどのように戦っていくのだろうか。
「クラウドリフト」案件ではネットワークサービスのメリットも生かせる
IIJの顧客層を細かくみると、メガクラウドの利用を望む企業は、クラウドのメリットを最大限に生かす「クラウドシフト」のニーズを持つ例が多いという。アプリケーションをマイクロサービス化したり、サーバレス技術などでモダンなアーキテクチャへと作り替えたりすることで、業務を変革しようとしており、AWSのサーバレスサービス「AWS Lambda」が特に人気が高いとしている。
一方、既存のITシステムをそのままパブリッククラウド環境に移行する「クラウドリフト」を望む企業も存在する。染谷氏は「大企業であっても、(IT担当者の退職などによって)既存のITシステムの中身を誰も知らない場合があります。そのため、なるべく既存のシステムに手を入れず、そのままクラウド化したいというニーズが生じています」と説明する。
既存環境をそのままクラウド化する際は、メガクラウドではなく、GIOのVMwareベースのプライベートクラウド環境のほうが向いている場合があるため、IIJにもチャンスが巡ってくるというわけだ。
染谷氏によると、顧客企業のクラウド移行を「リフト」で進める際は、システム環境が社内LANから外部のクラウド上に出るため、既存のWAN(Wide Area Network)の構成を見直すことも多いという。ネットワークに強いIIJは、クラウド移行の案件で、WANの刷新などのネットワーク事業での収益も見込めるのだ。
IIJのネットワークサービスでは、顧客企業に閉域網を使ったハイブリッド/マルチクラウド環境を提供できる。モバイル接続サービスを提供した場合、顧客企業の社員は、閉域網によってインターネットを経由せずに、自宅や外出先からパブリッククラウドなどの外部サービスにアクセスできる。
さらにIIJは、ネットワーク事業でも手厚いサポートを提供している。同社の顧客企業は、モバイルでの安全なアクセス経路を確保するために、自社のLANにVPNで接続し、そこから社内システムやパブリッククラウドにアクセスする――という方法を採っている例が多い。だがこの構成は通常、外部からのアクセスが増えれば、VPNのゲートウェイに負荷が集中し、レスポンスが低下するなどの問題が出る。パブリッククラウドの利用が集中する始業時間帯などにインターネット回線が混み合い、レスポンスが遅くなる問題もある。IIJは、こうした課題解決の支援も行い、満足度の向上につなげている。
これらのメリットを生かしてクラウド事業を拡大するため、IIJは現在、1万社ほどあるネットワークサービスの既存顧客にフォーカスし、クラウド移行を支援している。新規顧客を獲得するよりも安定的な収益が見込めるため、「より深くIIJのサービスを使ってもらえるように注力していきます」と染谷氏はいう。
3つの強みを生かせるか
IIJの強みをまとめると、(1)自社の製品にこだわらず、メガクラウドも含めたハイブリッド/マルチクラウド環境を提供できる点、(2)問い合わせ窓口を一元化し、顧客企業の負担を低減できる点、(3)すでに実績のあるネットワークサービスを生かし、顧客のきめ細かな要望に応えられる点――の3点になる。
こうした武器があれば、「オンプレミスのシステムをしっかりと守りつつ、新たにクラウドを活用したい」「クラウドを活用したいが、AWSやAzureを使いこなす人材を育てられない」という、企業のニーズや課題に対応できる。国内市場にはベンダーロックインを嫌う企業も一定数存在するため、これからハイブリッド/マルチクラウドの時代が本格的に到来するのであれば、IIJが国内市場で存在価値を示せる可能性は十分にありそうだ。
関連記事
- 「Cloudn」を終了するNTTコムは、外資が席巻する国内クラウド市場でどう生き残る? 今後の戦略を聞く
AWSやAzure、GCPが国内クラウド市場を席巻し、国内クラウドベンダーは厳しい状況に置かれている。そんな中で生き残るために、各社はどんな戦略を採ればいいのだろうか。新連載「国内クラウドベンダーの生存戦略」の第1回目では、「Cloudn」の2020年末での終了を決めたNTTコミュニケーションズにフォーカスする。 - 本格的なマルチクラウドの時代は到来するのか? 人気が出そうなSaaSは? 2020年のクラウド業界動向を占う
2019年は各ベンダーが、マルチクラウド向けのサービスを多くリリースした。20年はこの流れがさらに加速し、企業が複数のクラウドを使いこなすようになるのか。本記事では、19年にクラウド業界で起きたトピックを振り返りつつ、20年の業界動向を予測していきたい。 - 19年のクラウドインフラ市場、AWSの首位揺るがず 世界シェアの約3割占める Azureが約2割で猛追
Canalysが、2019年の世界クラウドインフラ市場を調査した結果を発表。ユーザー企業がクラウドインフラに支出した金額は、前年比37.6%増の約1070億ドル(約11兆7600億円)に拡大した。その約3割をAWS、約2割をAzureが占めた。 - 「クラウドは信頼できない」は本当か? AWS、Office 365、自治体IaaSの障害を経て、私たちが知っておくべきこと
2019年は国内外で、大規模なクラウドサービスの障害が相次いで発生した。それに伴い、「クラウドサービスは信頼できないのでは」といった議論も巻き起こった。だが、オンプレミスにも課題はある。メリットとデメリットを認識した上で、クラウドとうまく付き合っていくべきだろう。そのために必要な基礎知識と考え方を、ITジャーナリストの谷川耕一氏が解説する。 - 政府、情報システム基盤にAWS採用 高市総務相「セキュリティ対策も含め判断」
高市早苗総務大臣が「政府共通プラットフォーム」にAWSを採用する方針を明らかにした。国内各社のクラウドと比較・検証を行った結果、「セキュリティ対策なども含め優れていると判断した」という。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.