「人力に頼るのはもう無理」 新型コロナの情報をAIで検知するJX通信社の挑戦(2/2 ページ)
新型コロナウイルス感染症に関する情報が、国内外で日々発信されている。JX通信社は、AI技術を活用し、確度が高い最新情報を迅速に配信する仕組みを確立している。
一方で、企業絡みの感染者情報については、新聞社やテレビ局を上回る機動力で情報を検知できているという。ある企業で感染者が出た場合、企業はその事実を公式サイトなどで公表することになるが、「企業が公式発表する前に、SNSでその情報が漏れている場合が多いです」と細野CXOは説明する。
「例えば、感染者本人と思われる人がその事実を投稿するケースもあれば、感染者の情報が書かれたビルの張り紙の写真を撮影して投稿する人もいます。FASTALERTでは投稿後、最短20秒で検知できます」(細野CXO)
海外の情報については、情報元を現地のテレビ局やラジオ局などのSNSアカウントに絞ることで、現地メディアが報じる一次情報を素早く検知できるという。
「このような未曽有の状況では、細かな意思決定が企業の局面を左右するため、迅速な意思決定をするためには今起きていることを正しく把握しないといけません。渡航の可否や経済への影響などは、日本企業にとっても重要な情報といえます」と細野CXO。FASTALERTでは、企業のセミナー中止やテレワーク動向などの情報も提供しているが、今後もユーザー企業のニーズに合わせて配信内容を検討していくという。
デマ情報への対策をどうするか
新型コロナを巡っては、デマや真偽の怪しい情報が出回っていることも問題になっている。デマ対策について、細野CXOは「ある情報が正しいかどうか判断するためには、怪しい情報も含めて収集する必要があると思っています。AIの学習データとしても使いますし、行政やマスコミなどからはどんなデマが出回っているかを把握したいというニーズもあります」と説明する。
例えば、2月末に複数の報道機関が「新型コロナの影響で紙製品が不足するというデマが広がり、スーパーなどでトイレットペーパーが品薄になった」と報道したが、JX通信社ではそれより前に紙製品が世界各国で品薄になっていることを検知していたという。つまり、SNSの投稿だけが原因で品薄が引き起こされたわけではなく、メディアの報道が品薄を助長した可能性もある。
細野CXOは「見通しの立たない未曽有の出来事で、多くの人の生活に関わるようなことについてはデマが拡散しやすい」と指摘する。新型コロナがまさにそうだが、不安な気持ちが高まると人々は冷静さを失い、悪気はなくとも結果的に誤った情報を拡散してしまう恐れがある。JX通信社では、どのようなデマが広がったかの情報もアーカイブしており、社内でデマの傾向を分類するなど分析作業を進めているという。
報道機関や企業の情報収集には、まだ労働集約的な要素が色濃く残っている。「今回のようなイレギュラーなことが起きたときに、行政やマスコミはさまざまな対応に追われて本来の役割を担うのが難しくなります。われわれがテクノロジーの力で情報収集にかかるリソースを削減することで、彼らが報道や取材に集中できるようにしたいと思っています」と細野CXOは展望を語った。
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