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コラム

沖縄「ゆいレール」はなぜSuicaに対応したのか 地方鉄道に広がる交通系ICの「片利用」(2/2 ページ)

沖縄県で唯一の鉄道路線「ゆいレール」が、JR東日本の交通系ICカード「Suica」の運用を始めた。しかし、Suicaと相互利用できるようにはならない「片利用」という形式だという。OKICAとSuicaはどのような関係になるのか。調べてみると、地方鉄道の生き残る道が見えてきた。

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 もちろん、OKICAのような地方独自の交通系ICカードにもメリットはある。ユーザーの利便性向上に加え、高齢者への割引や「隣の駅まで100円」といったICカード特別運賃の設定が容易で、より地域に密着したサービスを提供できるからだ。一方で、独自ICカードは観光客など来訪者には優しくないサービスでもある。

 ただし、Suicaのような交通系ICカードと相互利用で連携しようとすると、数億円規模の接続コストや維持費などの負担が発生する。そこで「片利用」を選択し、自前の交通系システムと併用すれば、最低限のコストに抑えられるというわけだ。

 ゆいレールでは改札機のみにSuica対応の改修を行い、自前でSuicaの販売は行わない。チャージ機能は券売機で扱わず、窓口に設置したSuica処理機のみの対応にとどめているという。

全国で広がりつつある片利用

 実は、「片利用」で10カードを導入した地方の鉄道路線の例は、ゆいレールの他にもある。きっかけは、2015年に国土交通省が開催した「交通系ICカードの普及・利便性拡大に向けた検討会」だ。この会議がとりまとめた報告書では地域独自のICカードが全国に37種類もあることを指摘。そうした地域での利便性向上のために、片利用を一つのオプションとして提案している。


地域独自のICカードの例。左上が「えこまいか」(富山地方鉄道)、右上が「IruCa」(高松琴平電気鉄道)、左下が「SAPICA」(札幌市交通局)。そして右下が「OKICA」だ

 2015年のこの会議以降、10カードの片利用の導入例が増えつつある。2016年には「くまモンのIC CARD」を導入する熊本県内のバス5社が10カードの片利用に初めて対応。2018年には広島電鉄などの「PASPY」や高松琴平電気鉄道(ことでん)の「IruCa」などがそれぞれのICエリアで10カードの片利用に対応した。ゆいレールの事例はそれに続くものだ。

片利用の今後

 国交省は、片利用の導入を増やすためのシステムの構築を政策として掲げている。現状、10カードの導入に当たっては、10カードを運営するいずれかの主体(JR東日本など)とシステム接続を行う必要がある。そこに10カードとの外部接続を担う「片利用共通接続システム」を構築することで、地方の鉄道が10カードのシステムと接続しやすくするという。国交省では「2020年度を見据えつつ、10カードの片利用導入を促進」とシステム導入の時期を示しているが、具体的な導入事例はまだない。


「片利用共通接続システム」の概念図(総務省資料より)

 また、JR東日本は、国交省とは別のコンセプトでSuicaと地方独自ICの連携を進めようとしている。「地域連携ICカード」と呼ばれるシステムで、2019年には栃木県宇都宮市の交通事業者での導入が発表された。JR東日本の地域連携ICカードはSuicaを拡張した規格で、1枚のカードをSuicaそのものとして全国で利用できるのに加え、地域交通の独自ICサービスとしての機能もあわせ持つ。新たに交通系ICを導入する地域交通で、Suica連携の利便性を保ったまま、地域独自のサービスも担保できる仕組みだ。


「地域連携ICカード」の利用イメージ(JR東日本ニュースリリースより)

 10カードが大連合により利用者も対応路線も圧倒的なシェアを獲得した以上、地域交通独自の交通系ICカードも10カードのシステムに組み込まれていく事例は今後も増えていくだろう。

 JR東日本はQRコード改札の開発などでSuicaシステムのクラウド化を見据えた動きも見せつつある。将来的に交通系ICシステムのクラウド化が実現すれば、FeliCaチップ側に制約がある現在のシステムと比べて導入コストが下がり、地方鉄道の導入ハードルはさらに下がるかもしれない。

 いずれにせよ、他に先駆けて片利用の運用を始めたゆいレールは、独自ICカードを持つ他の地方鉄道にとって良い事例となるだろう。地域の過疎化などの問題で利用者数が厳しい状況の地方鉄道が今後生き残っていくためには、こうしたITの活用を進めていく必要がありそうだ。

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