「引用だから大丈夫」「昔話ならOK」――“読み聞かせ動画”のワナ(3/3 ページ)
新型コロナウイルス感染症の流行に伴う休校が長引く中、動画投稿サイトで公開されている読み聞かせ動画に注目が集まっている。子守に役立つ反面、著作権侵害の恐れもある。昔話や引用でも問題になる場合もあり注意が必要だ。
引用だから大丈夫?
読み聞かせや朗読動画を投稿している人の中には、「引用」として出典を明記しておけば、権利者の許諾を得る必要がないと考える人もいるようだが、それは大きな間違いだ。小説や絵本をそのまま読むような使い方は、引用とは呼べない。
引用には幾つかのルールがある。まず、自作した部分と引用元との主従関係が明確でなければならない。例えば、作品の一部を、自分の考えを交えて解説する動画で使う場合は、引用として認められるであろう。他者の文章の一部を必然性を持って利用する場合は、引用と見なされる。前述のように他者の著作物を丸ごと読み上げる行為は引用とは見なされない。
こんな事例もあるようだ。市販の絵本の読み聞かせや小説の朗読に、効果音やBGMを追加して二次創作的な作品として仕上げている動画がある。これもアウトだ。絵を撮影したり、物語の文章をそのまま朗読していれば、引用とは呼べない。
そもそも、オリジナルの絵に手を加えたり、物語に無断で効果音やBGMを付けると、作者の意図しない形態に改変されたと判断される可能性もあり、著作権だけでなく著作者人格権の「同一性保持権」をも侵害していることになる。
権利の切れた昔話ならOK?
もう一つ勘違いしている事例として、「サルカニ合戦」のような昔話を扱った絵本であれば、著作権が切れている「パブリックドメイン」なので大丈夫だと考える人もいるようだ。しかし、そこにも注意が必要だ。
例えそれが、昔からの伝承による物語だとしても、それを絵本という形の作品(商品)に仕上げるために絵を描き、物語としての文章を創作した作者が存在することは忘れないでほしい。その作者には、創作者としての権利が発生しているのだ。
例えば、ディズニーの「シンデレラ」は、シャルル・ペロー(17世紀)やグリム兄弟(19世紀)が編さん・収集した民間伝承をベースにした作品であるが、ディズニーが公開している絵面やストーリーは、ディズニーの創作物であり、米The Walt Disney Companyが権利を保有している。
紫式部の「源氏物語」はパブリックドメインだが、それを基に現代語に訳し、時代絵巻小説として作品化した「瀬戸内寂聴の源氏物語」の著作権者は、瀬戸内寂聴だ。
「この絵本はすてきだから広く紹介して、多くの子どもに楽しんでもらいたい」「この小説はみんなに知ってほしい」という純粋な気持ちから動画を投稿する事例もあるようだが、他者の著作権や利益を侵害している可能性があることは心に留めておくべきだ。
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