自作キーボードのもう一つの沼、キー配列:ハロー、自作キーボードワールド 第6回(2/2 ページ)
「自作キーボード」と検索するといつも見慣れた形状のキーボードより、キーが極端に少なかったり左右に分かれていたりと珍妙なものが多く見つかることだろう。今回はそんなキーボードの「キー配列」に注目し、どんな分け方があり、どのような使われ方をしているかなどをお伝えしたい。
キーがずれているのがタイプライターの物理的な組み立て上の都合であったのなら現代のキーボードはいっそのこと格子状にきれいに配置されてても良いのではないか。そんな発想から作られた、「Ortholinear(格子)Layout」は見た目にもシンプルな印象を受ける物理配列だ。大型のキーボードよりは小型のキーボードでよく見る配列で、指の移動もホームポジションから上下左右に均一になる利点がある。
エルゴノミクスと左右分離型
キーボードで肩や手首を痛めた経験のある人は少なくないだろう。原因の一つは手首を曲げたり、肩を狭めたまま入力してしまうなど、人間にとって不自然な格好を長時間続けてしまうことだ。
それを解決するのが人間工学(エルゴノミクス)に基づいたキーボードである。有名なものとしてはMicrosoftが販売を続けている「Ergonomic キーボード」シリーズがある。最新の「Surface Ergonomic キーボード」でも同様に、キー配列を立体的に湾曲させた独特な形状を採用している。
また、自作キーボードに特に多いのが「左右分離型」のキーボードだ。大型になりがちな市販のエルゴノミクスキーボードと比べ、左右分離型の自作キーボードでは左右をケーブル(一部無線)で接続するため、楽な姿勢で入力できる位置に置けたり、空いたキーボード間のスペースに飲み物を置いたりできるのが利点だ。
論理配列 あなたはJIS派? ANSI派? それとも親指シフト派?
論理配列は、キー自体の並び方(物理配列)とは別に、キーを押したときにどの文字が入力されるかを決めたものだ。JIS配列、いわゆる日本語配列は左上からQWERTY……と並んだ「QWERTY配列」にかなを組み合わせた「JIS X 6002-1980」で規格化されたものがベースとなっている。
英語圏では「ANSI INCITS 154-1988」で規格化されたQWERTY配列を基にしたANSI配列が英語配列キーボードとして一般的に使われている。他にも「ISO/IEC 9995」で規定されているISO配列があり、これらはキーの物理配列(特にEnterキー)が異なり、ドイツでは「QWERTZ配列」、フランスなどヨーロッパ圏の一部では「AZERTY配列」などとして採用されている。
これ以前のQWERTYが生まれた過程などはNTT出版から刊行されている「キーボード配列QWERTYの謎」(安岡孝一/安岡素子 著)に詳細がまとまっている。
同じ国でも入力効率を求めた異なる論理配列がある場合もあり、有名なのは米ワシントン大学の教育学者August Dvorak氏が考案した「Dvorak配列」だ。英文入力においてアルファベットの頻度などから理論的な入力効率の良さを求めた配列であり、ホームポジションの周辺に頻度の高い文字を配置し、指の動きを少なくするように設計されている。
日本でも同じように日本語文章の入力効率を求めたキー配列が研究された例もある。富士通が開発した「親指シフト配列」だ。日本語のかな入力を効率化するための配列で、日本語は英語とは違いスペースキーを押す回数が少ないことに着目。親指部分に2つのシフトキーを配置した。この2つのシフトキーとかなキーと同時に打鍵することで一つの動作でかなを1文字入力できる。国内で根強いファンを獲得したものの、JIS配列の普及に打ち勝つことができず、2020年5月に富士通は販売終了を発表した。
自作キーボードにおけるキー配列
自作キーボードは自作であるがゆえに、キー配列を用途や好みに合わせて物理配列と論理配列の2つの側面から突き詰めることができる。そのため市販品ではほぼ存在しない左右分離型のキーボードや、何かと暇になりがちな親指にキーを割り当てたものなど、多種多様なキーボードが開発されている。
詳しくはファームウェアを取り扱う回で紹介するが、キーボードのコントローラーに汎用マイコンを使うことで論理配列も大幅にカスタムできるようになった。国内の自作キーボードコミュニティーでは新たな論理配列としてゆかり氏設計の「Eucalyn配列」が登場したり、先に紹介した親指シフトを実装したりした例もある。
「せっかく普通のキーボードで入力できているのだから、他のキーボードにわざわざ移行する必要があるのか」と疑問に思う人もいるかもしれない。しかし一度移行してしまえば、快適さやカスタマイズの可能性に気付き、より改善したくなる「キー配列沼」にハマること請け合いだ。
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