IaaS市場はなぜ伸びている? 大手3社の戦略の違いは? クラウド業界事情を基礎から徹底解説(4/5 ページ)
クラウドは2000年代半ばに登場した比較的新しい技術でありながら、現在では当たり前の存在となった。目まぐるしく変化を続けるクラウドへの理解を深めるため、市場の中でも特に成長が著しいIaaS領域に着目し、世界の主要ベンダーとその動向をみていこう。
AWSの後を追うAzure
そのAWSの後を追うのが、MicrosoftのIaaS「Microsoft Azure」だ。
AzureもAWS同様、IaaS市場のリーダーとして幅広い機能やサービスを網羅している。しかしAWSに追い付くまでには至っておらず、2位の座に甘んじている。そんな中でMicrosoftが示している戦略の一つが、エンタープライズユーザーの獲得だ。
Microsoft製品は、オンプレミスが主流だった時代から「Windows Server」「SQL Server」などが大手企業で広く活用されてきた。その知名度と信頼度に加え、同社製品に基づいて構築された社内システムをクラウド環境に置き換えられることをアピールし、既存資産を生かしたい大手企業に売り込みをかけるのがMicrosoftの戦略だ。
その戦略は功を奏しつつある。米Goldman Sachsは年に2回、Global 2000(世界の公開会社の上位2000社)のITエグゼクティブ100人を対象に、各社のIT支出に関するアンケート調査を行っている。その最新の結果によれば、Azureは大企業でAWSよりも多くの支持を集めている。
同社の調査結果では、売り上げベースの市場シェアは依然としてAWSが最大の割合を占めている(MicrosoftはAzure単体での売り上げを公表していないが、40億ドル程度と推定されている)ものの、100人中56人が自社でAzureを使っていると回答。AWS派の48人を上回った。また今後3年間で利用する可能性のあるクラウドサービスも、Azureを挙げた回答者が最も多かった。
AWSに対抗する戦略としてAzureが採用しているものの中で、もう一つ注目なのが、前述のエッジコンピューティングへの対応だ。
今年4月、Microsoftはエッジコンピューティングに関する包括的な戦略を発表した。その中心となるのが「Azure Edge Zones」と呼ぶソリューションだ。Azureを拡張するプラットフォームで、5G通信を使って一貫性のあるAzureサービスをエッジコンピューティングで利用可能にするもの。具体的には「同じAzureポータル、API、セキュリティツールを使用した、クラウド、オンプレミス、エッジにまたがる分散型アプリケーションの開発」が可能になると同社は説明している。
同様のコンセプトは他の2社も発表しているが、市場ではエンタープライズ系のユーザーがエッジコンピューティングを意識し始めているため、Azure Edge ZonesのリリースがMicrosoftにとって有利に働くだろうと予想する声もある。
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