IaaS市場はなぜ伸びている? 大手3社の戦略の違いは? クラウド業界事情を基礎から徹底解説(5/5 ページ)
クラウドは2000年代半ばに登場した比較的新しい技術でありながら、現在では当たり前の存在となった。目まぐるしく変化を続けるクラウドへの理解を深めるため、市場の中でも特に成長が著しいIaaS領域に着目し、世界の主要ベンダーとその動向をみていこう。
3社の中では最後発 Googleの戦略とは
最後はGoogleと、そのクラウドサービスであるGoogle Cloud Platform(GCP)だ。コンシューマー系サービスでは圧倒的な存在感を誇るGoogleだが、IaaS系サービスの提供を開始したのは2013年の「Google Compute Engine」であり、他の2社に比べて遅い。そのためIaaS市場では、GCPは3社の中で最もシェアが小さく、Alibabaの後塵(こうじん)を拝している。
とはいえMicrosoftがエンタープライズ系に活路を見いだしているように、Googleも広範なIaaS系サービスを提供しつつ、コンシューマー系サービスで培った技術やブランド力を起点に独自の強みを示そうとしている。
その一つが、ビッグデータ分析やAIなど、大量データの処理が求められる領域だ。AWSがAmazonのECサイトという、コアビジネスが進めた技術開発から生まれた副産物であるように、GCPもGoogleの検索エンジンや、YouTubeの動画プラットフォームといった巨大インフラから生まれたサービスである。
そのため大規模なデータを扱うことに強く、エンタープライズ系のユーザー企業の中には、SpotifyやSnapchatのようなリッチコンテンツ系サービスの運営元や、英HSBCのような金融機関などが存在している。
またAIもGoogleのブランド力が生かされている領域だろう。Googleは「TensorFlow」と名付けられた機械学習用ソフトウェアライブラリを開発し、オープンソース化して公開している。このライブラリはGoogleの各種サービスでも活用されているものだが、それを誰でも利用できるプラットフォームが「Google Machine Learning Engine」である。他にも画像分析用のVision AIや、動画分析用のVideo AI、ディープラーニング向けに構成された仮想マシンDeep Learning VM Imageといったサービスが提供されており、ユーザーのAI開発を支援している。
さらにGoogleは昨年、自社イベント「Google Cloud Next」で「Anthos」という新しいプラットフォームを発表した。ハイブリッド/マルチクラウドを構築するためプラットフォームで、Googleが自社の大規模インフラで培ったコンテナ化技術を応用。ユーザーはオンプレミスかクラウドかを意識せずシステムを開発・管理できる。ユーザー企業にとって注目のサービスであり、Microsoftが強みを持つ領域に切り込む存在になることが予想されている。
Googleのエッジコンピューティング分野での目ぼしい取り組みについては、18年に発表された「Edge TPU」と「Cloud IoT Edge」が挙げられる。Edge TPUはエッジ側での推論を可能にするための半導体製品、Cloud IoT EdgeはGoogle CloudのAIの機能を拡張する技術。いずれもAI分野でのエッジ活用を強化するもので、この辺りからもGoogleの目指す方向性が見えるだろう。
駆け足だが、Amazon、Microsoft、GoogleなどがリードするIaaS市場を見てきた。とはいえこの業界では、中国Alibabaをはじめ、米Oracleや米IBMなど、歴史、強み、ビジョンを持つ企業がしのぎを削りあっている。数年後に順位が大きく様変わりしていてもおかしくない。
関連記事
- AWSとSlack、戦略的提携を発表 SlackはAmazon Chimeを採用し、AWSは全社でSlackを採用
Amazon.com傘下のAWSとSlack Technologiesが戦略的提携を発表した。Slackは通話機能で「Amazon Chime」を採用し、AWSは社内コラボレーションツールとしてSlackを採用する。 - エネルギー業界では難しかった“フルクラウド化”に挑戦 発電会社が3カ月でERPをAzureに移行するまで
発電会社のJERAは、エネルギー業界では珍しく、システムのフルクラウド化を目指している。まず2019年11月に「Microsoft Azure」を導入し、20年2月にはERPをオンプレミスからAzureに移行。現在はその他のシステムをAzureに移行中だ。同社はなぜこうした施策に踏み切ったのか。 - Google Cloudで円周率を31.4兆桁計算 ギネス更新した日本人技術者が振り返る舞台裏
「Google Cloud Platform」を使って円周率を小数点以下約31兆4000億桁まで計算し、ギネス世界記録に認定された、日本人技術者の岩尾エマはるかさん。Google日本法人がこのほど開いた年次カンファレンス「Google Cloud Next'19 in Tokyo」に登壇し、記録達成の舞台裏を語った。幼少期から円周率計算に興味を持っており、大規模な計算を成し遂げることが夢だったという。 - 本格的なマルチクラウドの時代は到来するのか? 人気が出そうなSaaSは? 2020年のクラウド業界動向を占う
2019年は各ベンダーが、マルチクラウド向けのサービスを多くリリースした。20年はこの流れがさらに加速し、企業が複数のクラウドを使いこなすようになるのか。本記事では、19年にクラウド業界で起きたトピックを振り返りつつ、20年の業界動向を予測していきたい。 - Google、新サービス「Anthos」を公開 Kubernetesをベースにオンプレミスやマルチクラウドを実現
GoogleがKubernetesをベースにアプリケーションのマルチクラウド対応を実現する新サービス「Anthos」の提供を始めた。AWS上で稼働するデモも披露し、Google以外のクラウドをサポートすることによるマルチクラウド対応を行う方針であることを示した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.