コロナ禍でFAX・Excelから脱却 感染者データをクラウドで管理 ITで変わる自治体の今(2/2 ページ)
役所では、紙とファクスを使った情報共有などの文化が根強く残っている。だが、新型コロナウイルスの感染が拡大し、地方自治体にもスピード感ある情報共有が求められるようになった。この状況に対応するため、クラウドを活用する自治体も現れつつある。その活用法はどんなものか。
日本IBMの元常務を招いて改革
山縣さんによると、大阪府庁の職員が短期間でシステムを構築できた理由は、府庁に公民連携に取り組む風土があったことと、ITに強い人材を採用していたことだ。
大阪府は2015年に、大学や企業と連携して、健康、産業、教育などの社会課題の解決を目指す部署「大阪府公民戦略連携デスク」を設置。20年4月には、テクノロジーを使った住民向けサービスを立案する専門部署「スマートシティ戦略部」を立ち上げ、日本アイ・ビー・エム(IBM)で常務執行役員を務めていた坪田知巳さんを部長に招いた。
また、システム開発などを担う職種の採用にも注力。今回のkintoneを使ったアプリを開発したのもこの職員だ。こうした組織づくりによってITリテラシーの高い人材を集め、官民連携へのハードルを下げたことがkintoneの導入につながったという。「IT活用に向けて戦略的な人事を行っている」と山縣さんは自信を見せる。
大阪府は今後も、kintoneを使ったコロナ対策や業務改善に注力する方針だ。7月21日には、kintoneを活用した全庁での業務改善や、児童虐待を防ぐ情報連携システムの構築に向け、サイボウズと事業連携協定を結んでいる。
自治体がITをうまく使いこなすには、デジタルではない要素が大切
大阪府庁以外でも、kintoneを使ってコロナ対策関連のシステムを構築する役所や自治体が出てきている。
例えば大阪府八尾市は、コロナ禍によって売り上げが減少した事業者をサポートするために、独自の給付金を支給しており、この申請システムをkintoneで構築している。
申請方法はオンラインと郵送の2通りで、オンラインの場合は、必要な電子書類をAIに学習させ、間違った書類が添付された場合は自動でアラートを出している。郵送の場合は、手書き文字の認識に対応したOCRソフトと申請システムを連携させ、書類をスキャンすると法人名や住所などをkintoneに自動入力する仕組みを用意している。
神奈川県も感染者数の把握にkintoneを活用。関係機関と連携し、感染者数、PCR検査数、医療機関の稼働状況などのデータをクラウドに集約している。県庁ではリモートワークを採用しているため、庁舎と家で働く職員が作業を分担しながら、保健福祉事務所などと情報を共有。日々の感染者数などを公式サイトに載せているという。
ただ、全ての自治体にこうした取り組みが広がっているわけではない。感染者の集計・管理や給付金申請の処理に時間がかかっている地域もある。サイボウズの蒲原さんによると、kintoneのようなノーコード開発ツールを取り入れたものの、うまく使いこなせていない自治体もあるという。
蒲原さんは「ノーコード開発ツールは、導入したら業務効率が上がる魔法のツールではない。自治体がITをうまく使いこなすには、ビジョン、組織、人事など、デジタルではない要素が大切。それが自治体間の差を生む」と語った。
「Cloud USER」特集:コロナ時代のクラウド活用
新型コロナウイルス感染拡大に伴って、企業はテレワーク導入などの体制変更を強いられた。新しい働き方に適したIT環境を築く上で、大きな鍵を握るのがクラウドの活用だ。
サーバやストレージ、仮想デスクトップ、ビデオ会議、チャット――。インフラや業務アプリにクラウドを使うと、企業は必要に応じてリソースの拡大縮小を行える他、場所を問わない意思疎通を可能にし、柔軟な働き方を実現できる。
だが、クラウドも万能ではない。オンプレミスよりもセキュリティ管理が難しく、障害発生のリスクもある。
企業はどうすれば、課題を乗り越えてクラウドを使いこなし、働きやすいIT環境を実現できるのか。識者やユーザー企業への取材から答えを探る。
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