コロナ禍でテレワーク普及も、日本はクラウド後進国のまま? その裏にあるSI業界の病理(1/2 ページ)
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、企業活動がオンラインにシフトしつつある。だが日本企業では、依然としてクラウド活用が進んでいないという。その要因について、ガートナージャパンのアナリスト、亦賀忠明氏に聞いた。
「新型コロナウイルスの感染が拡大し、テレワークが普及しても、日本ではクラウド活用があまり進んでいない」――国内企業のITインフラ事情に詳しいガートナージャパンのアナリスト、亦賀忠明氏(ディスティングイッシュ バイスプレジデント)は、現状をこう分析する。
ガートナーが今年1月に行った調査では、日本企業のうち業務でSaaSを使っているのは31%、PaaSは19%、IaaSは17%だった。この状況は、欧米などの先進国と比べて5〜10年ほど遅れているといい、「相当にスロー」と亦賀氏。コロナ禍の影響で企業活動がオンラインにシフトしつつある現在も、この比率はあまり変わっていないと指摘する。
「ビデオ会議ツールやチャットツールなど、特定の用途で使えるSaaSは確かに伸びている。だが、IaaSへの移行や、クラウドを使った業務プロセスの刷新など、抜本的な改革に至っている企業は少ない。クラウドの重要性は認識していても、スキルを持った人が現場におらず、IaaSを導入しても自社で使いこなせる企業は限られているようだ」(亦賀氏)
テレワーク中でも「物理サーバを見ないと気が済まない」
理屈の上では、テレワーク中の企業がIaaSを使うと、Webブラウザのコンソール画面から遠隔操作でインスタンスを立ち上げたり、負荷状況に応じてサーバのスペックを調整してリモートアクセスの急増に対応したりと、働き方の変化に応じた運用管理ができるはずだ。だが企業の現場には、こうした手法に適応できなかったり、クラウド活用に抵抗感を示したりして、オンプレミスにこだわるシステム担当者がいるという。
「コロナ禍においても『IaaSのコンソール画面の使い方が分からないから使わない』と諦める人や、『異常があったらサーバそのものを見に行かないと気が済まない』と考える人が確かにいる。こうした人は、テレワーク中でも不具合があれば、マスクをしてオンプレミスサーバを復旧しに出社しているようだ。もはやデータセンター内に泊まっていたほうが、移動するよりも感染リスクが低いのでは」と亦賀氏は皮肉を込める。
企業がコロナ禍という社会情勢に適したITインフラを構築し、リモートでも社員が円滑に働ける環境を整えるには、クラウド活用が有効な手段なのは確かだ。にもかかわらず、なぜIT担当者は価値観をアップデートできないのか。
この点について、亦賀氏は「ユーザー企業が、ITインフラの構築などをSIerに全て任せてきたことが最大の要因だ」と話す。
日本企業はこれまで、ITインフラはオンプレミスを基本とし、その上で稼働する業務システムをSIerがオーダーメイドで開発していた。一方、クラウドサービスは汎用的に作られており、特定の企業に合わせた仕様にはなっていない。そのためユーザー企業は運用管理の際に、従来とは異なる新しいプロセスを学ばねばならない。この負担から逃れるためにオンプレミスを使い続けているため、日本企業は古い価値観から抜け出せないという。
「『海外ベンダーのデータセンターにデータを預けると危ない』『インフラをAmazonに任せていいのか』と心配する声もよく聞くが、クラウドサービスとはそもそも、データの管理をクラウドベンダーに任せるものではない。セキュリティ対策やバックアップはユーザーの責任だとSLAで規定されている。そこをきちんと確保しながら運用するのが本当のクラウド活用だが、そこが全く理解されていない」
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