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コロナ禍でテレワーク普及も、日本はクラウド後進国のまま? その裏にあるSI業界の病理(2/2 ページ)

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、企業活動がオンラインにシフトしつつある。だが日本企業では、依然としてクラウド活用が進んでいないという。その要因について、ガートナージャパンのアナリスト、亦賀忠明氏に聞いた。

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オンプレはクラウドよりもカネになる?

 ユーザー企業の知識不足に乗じたSIerの戦略も、日本企業のクラウド活用の遅れに拍車を掛けているという。「SIerはクラウドよりもオンプレ製品を売りたがる。その方が多額の利益を得られるからだ。AWSやAzure、GCPの代理販売はあまりやりたくないのが本音だろう。ユーザー企業がクラウドの利便性に気付き、SIerを通さず大手クラウドベンダーと直接契約すると、売り上げが流れるのでひやひやしているようだ」と亦賀氏は明かす。

 「かつてこんな事例を見聞きした。某SIerが、とあるクラウドサービスで構成したITインフラをユーザー企業に提案した。サーバ、データベース、データウェアハウス付きで、見積額は初期費用が1億円、年間利用料が2000万円。オンプレよりも大して安くなっていなかった。本当はこんなにかかるわけがない。本来、クラウドサービスは従量課金制なのに、見積書では24時間365日使う前提で運用管理費を算出していた。データウェアハウスを土日の深夜に使うわけがない。ユーザー企業の知識不足をいいことに高い金額を示したのだろう」

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ガートナージャパン アナリストの亦賀忠明氏(ディスティングイッシュ バイスプレジデント)

 こうした提案は業界でしばしばあり、一部のユーザー企業は「クラウドはコストメリットがあると聞いたのに、オンプレとあまり変わらない」「クラウドは安くなるという情報はウソだったのか」などと感じて導入を断念し、オンプレミスに戻っていくという。それでも「ITインフラの構築はアウトソーシングするのが当たり前」という固定観念はなかなか拭えず、SIerの見積もりに疑念を抱くユーザー企業は少ないと亦賀氏は嘆く。

 ユーザー企業がSIerの提案をうのみにし、クラウド活用に踏み切れない背景には、日本企業ならではの人事制度があるという。「大企業や金融機関に多いジョブローテーション制度は問題だ。システム部門に配属され、2〜3年かけて基礎知識を身に着けた人材が、すぐに別の部署に異動していく。これでは、クラウド導入を主導できる人材は育たない」

 亦賀氏によると、クラウド活用を内製化できている日本企業は、現時点ではごくわずか。その中でも「特に成功している希少な例」として亦賀氏が挙げたのが、「Microsoft Azure」を採用して基幹系システムをクラウド化した第一生命保険だ。同社は、保険の契約者が専用サイトにログインする際の認証システム、キャンペーン管理システム、データ分析システムなどを、Azureベースのクラウド基盤「ホームクラウド」上に構築し、昨秋から段階的な運用をスタート。今夏に完成させ、今後はグループ企業に展開する予定だ。

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第一生命のクラウド基盤の概念図

 第一生命はこのシステムを、日本マイクロソフトのリファレンスアーキテクチャ(ユースケース別にシステム構成をまとめた文書)に基づいて開発した。亦賀氏は「マイクロソフトなどのベンダーが、ユーザー企業のアーキテクチャの設計から運用までを指南したらSIerの出る幕はなくなる。SIerは、生き残るためにもビジネスモデルを変えて、ユーザー企業のクラウド活用を指南したり、伴走したりするようなサービスを始めてほしい」と提言する。

 「SIerは生まれ変わるべきだ。コロナ禍においても、ユーザー企業のミスリーディングを誘って利益を得ていると(日本企業のクラウド活用の遅れは)取り返しがつかなくなる。『DXの会社になる』などと自社の新戦略を発表しているSIerもあるが、内部ではなく顧客向けの戦略を考え直してはどうだろうか。ユーザー企業も、今変わらなければいつ変わるのか。前時代的なITインフラの運用から脱却するための議論をもっと進めてほしい」

「Cloud USER」特集:コロナ時代のクラウド活用

新型コロナウイルス感染拡大に伴って、企業はテレワーク導入などの体制変更を強いられた。新しい働き方に適したIT環境を築く上で、大きな鍵を握るのがクラウドの活用だ。

サーバやストレージ、仮想デスクトップ、ビデオ会議、チャット――。インフラや業務アプリにクラウドを使うと、企業は必要に応じてリソースの拡大縮小を行える他、場所を問わない意思疎通を可能にし、柔軟な働き方を実現できる。

だが、クラウドも万能ではない。オンプレミスよりもセキュリティ管理が難しく、障害発生のリスクもある。

企業はどうすれば、課題を乗り越えてクラウドを使いこなし、働きやすいIT環境を実現できるのか。識者やユーザー企業への取材から答えを探る。

第1回:コロナ禍でテレワーク普及も、日本はクラウド後進国のまま? その裏にあるSI業界の病理

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