小売店は「ショールーム化」していく?
同氏はまた、新型コロナウイルスの動向に関係なく、小売店の将来像について「ショールーム化」と「オンラインとオフラインの融合」を挙げている。筆者もここ数年米国を訪問するたびに感じていたことだが、小売店舗は売るための商品を並べるだけの空間から、実際に商品を体験したり、商品のバックグラウンドにあるストーリーを語る場へと変化しつつある。
先日、日本に体験型店舗の「b8ta」(ベータ)が上陸したが、この店舗の面白いところは必ずしも店内で買い物を行う必要はなく、そこで体験した商品が気に入ったら後でオンラインから注文することもできることだ。b8taの場合は店頭にストック在庫も用意されているが、「決済はするけど、買ったものを持ち帰らず、在庫を持たない店舗があってもいい」というのは染谷氏の考えでもある。
体験を販売し、顧客のデータを取得しつつ、EC側でリピートしてもらうのが新しいビジネスモデルとなる。ここで重要になるのはやはり店員で、b8taの場合も商品説明のための店員教育に時間とコストをかけている点を強調している。同氏は「こういった店舗のスタッフはアンバサダーであり、販売員ではない。ブランドの体験価値やストーリーをきちんと顧客に浸透させる役割を担っており、ブランドを好きになってもらうことが重要。『わざわざ店を訪問するのだから客はブランドが好きで当たり前』と考えること自体が盲点」と指摘する。
考えてみれば、Apple Storeなどはこうしたブランド構築がうまくできている好例だろう。店員自身がApple製品のファンでかつユーザーであり、顧客目線で来店者と語り合えるのも「次もこの店を訪問してみようか」と思わせるコツなのかもしれない。
いずれにせよ、WFHが浸透してこれまでより外出機会が減ったとしても、それだけ「外出して人と会う価値が高まる」とするのが染谷氏の考えだ。現在はZoomやTeamsなどを使ったオンラインミーティングの機会が増えているが、ここで実務ベースの詰め合わせはできても、決裁者同士や代表者同士など、何かのタイミングで“実際に会う”行為自体が重要なのは、人間である以上当然だろう。
このような実際に顔を合わせる経験はアフターコロナの世界でも引き続き重要であり、最終的な信用形成につながる儀式的なものだと同氏はいう。オフィスはそのために今後も残るし、タッチポイントとしてのリアル店舗もまた残り続ける。そんな厳しい状況をいかに生き抜いていくか。こうした時代だからこそ、次を見据えて大胆に動くべきなのかもしれない。
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