50代文系副社長、AI学んで1000時間 1人で作ったアプリが大手食品メーカー採用に至るまでの軌跡(3/3 ページ)
「Pythonも知らない状態だった」という50代文系副社長が、大手食品メーカーも採用するほどの商用AIサービスを作るまでの物語。
数カ月かけていた調査をAIで数分に短縮 “ある流通戦略”に効果も?
山崎准教授のアドバイスを得ながら、坂元さんが1人で実装したパッケージデザインAI。聞くと、確かにこのサービスは市場に刺さりそうだ。
このAIはパッケージデザインの好意度を5段階で評価する他、消費者がパッケージ上のどこを注視するか、どんな理由で好意を持つかなどを可視化してくれる。かかる時間は数分だ。
通常のパッケージデザインの評価プロセスに対する代替手法になるのはもちろん、“ある流通戦略”に対しても効果が出そうだ。
それは「少しだけデザインを変える」というもの。商品によっては、中身を変えずパッケージデザインだけを若干変更することがある。デザインを変えないと、古い商品はいらないとして流通側が販路に乗せないからだ。しかし、デザインを変えすぎると消費者に同じ商品と認知されず、売れなくなってしまう。こうした変更は流通戦略上よくある手法だという。
しかしデザインを変える上で、従来のように実際に人を集めてパッケージデザインを見てもらい、アンケートを取るのは時間と金がかかる。「数カ月・数百万がかかるのが当たり前」とプラグの広報担当は話す。
それがパッケージデザインAIなら数分でできる。プランによるが、コストも画像1枚当たり1万5000円と従来の100分の1で収まる。
ただ、AIの出した結果だからといって無批判に信じていいかといえば課題もある。アンケートであれば統計的な検定で有意差を出せるが、AIによる予測では有意差をはっきりとは示せないのだという。
「インターネット調査の登場」と類似の状況?
それでも、AIによるパッケージデザインの好意度予測は受け入れられていくと坂元さんらはみている。約20年前にも同じような状況があったからだ。
「インターネットによる調査方法が現れた当時は『対面で取るデータとどれほど整合性があるのか』と疑問も持たれたが、いつの間にか受け入れられていった。同じように、AIによる手法も認知されてくれば『今の方法よりマシ』となるかもしれない」(坂元さん)
今でも「AIの結果の方が正しそうだ」という声もクライアントから上がるという。従来の調査方法では、強引にアンケートを取ることで意図的に差を出すこともできてしまう。「大事なのは強引に出した結果ではなくて、本当にその商品が消費者に受け入れられるか」と、AIの客観性が評価されているとしている。
今後はチーム開発も視野
クライアントからのさらなる要望に答えていくため、坂元さんは独力での開発からチーム開発への移行を検討している。プロジェクト自体はすでにコード管理ツールの「Git」で社内のインフラエンジニアと共有しているため、重要なのは人の採用だ。
どんな人を募集するかは悩んでいる。しかし、即戦力のデータサイエンティストの採用は狭き門であることから、「AIについては未経験でもPHPなどはやったことがあるような30歳くらいの若い人を呼びたい」としている。「AIをやりたい人は多いと思うが、AI人材として経験を積める場所は多くない。その点、当社であればデータセットも知見もたまっているので、一緒に学んでいけると考えている」
独力でプログラミングからAIまで学んだ副社長は、経営リーダーとして培った手腕とともに、今度はAIエンジニアのリーダーとしてプロジェクトや会社をけん引する存在になるのかもしれない。
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