月にふるさとの味を“転送”──フードテックベンチャーが目指す「調味料プリンタ」の可能性:食いしん坊ライター&編集が行く! フードテックの世界(2/2 ページ)
料理が苦手な人でも、ふるさとの味やプロの味を再現できる“調味料プリンタ”がある。静岡のフードテックベンチャーが実用化を進め、将来は月面での活用も検討しているという。開発者に話を聞いた。
ふるさとの味を月面へ“転送”
こうした地上での実用化と並行し、月面基地でも稼働するcolonyの開発にも大手企業などと協力して着手する。重力の少ない場所でも動かすことはできるのだろうか。
「月面は地球の6分の1の重力があるため、仕組み上は地上で使うものとあまり変わらないものを想定しています」と岡田さん。colonyは複数の調味料のタンクが入ったカートリッジを本体に装着し、コンピュータで制御したポンプを動かして調味料を出力する。重力の低い場所であっても調味料を押し出せると考えているそうだ。
「ただ、使われるパーツは異なるでしょう。地上用は安価でメンテナンスしやすく、世界中で使えるようにするため、どこでも調達しやすい汎用部品を使っていますが、月面やISSといった極地空間でそのまま使えるかどうかは分かりません。その辺りは、宇宙のプロフェッショナルの方たちと設計していきます」
“月面colony”が実現すれば、地球にいる家族と同じ料理をリアルタイムで食べることも可能になるだろう。岡田さんは「月で食べものを生産し消費する月産月消の時代を想定すると、地球と同じ味を楽しめるcolonyは価値があるのではと考えています」と期待を込める。
“不完全”だからこそ一手間が必要
今後の展開に夢が広がるcolonyだが、扱う調味料によっては人手が必要なこともある。ドレッシングのように酢と油を出す場合、最終的にはユーザーが振って乳化させる必要があるのだ。
「colonyで調理の選択肢は広がります。でも全てのメニューをカバーすることは目指しておらず、いわば“不完全”な調理家電です」
使用できる調味料は液体もしくは粘体の調味料。パウダーや塩の粒のような乾燥した調味料は現状使えない。代わりに塩水を使うなど塩味のコントロールはできるが、乾燥調味料でなければ作れない料理の味付けは難しい。
「ロボットアームをつけてコショウをミルでひく仕組みはできますが、価格が数十万〜数百万単位で高くなります。どこでも手軽に使われることを目指すcolonyには、現実的ではありません」
単体で使うことはもちろんだが、他社の家電も併用して料理を完成させたり、既存のミールキットに一味加えたりといった活用も想定するという。個人的にミールキットとの相性は高いとみた。それこそコンビニでも扱われているミールキットやカット野菜をおいしく食べられる調味料となれば、その手軽さに注目度は大いに高まるはずだ。
関連記事
- くら寿司、AIで「特上マグロ」見抜く コロナ禍での仕入れを効率化
くら寿司が、AIの画像解析技術で冷凍天然マグロの品質を判定するシステム「TUNA SCOPE」を導入。最高ランクの個体だけを仕入れて調理し、期間限定で販売する。コロナ禍によって職人の移動が制限され、品質判定が難しい状況に対応する。 - AIが「本当においしいラーメン店」を判定 頼りは口コミ、偽レビュー排除の仕組みを開発者に聞く
AIが都内の「おいしいラーメン店」をランク付けする──そんなサービスを、東大発のスタートアップが開発した。ネットのレビューの信頼度をAIが判定するという。開発者に狙いやサービスの仕組みを聞いた。 - JR渋谷駅に“無人カップラーメン店”登場 セルフで決済・調理、掃除はロボ任せ 「最新技術を詰め込んだ」
エースコックがJR山手線渋谷駅のホームに“無人カップラーメン店”を期間限定でオープンする。店内では、顧客がセルフで決済・調理・飲食できる。食後は米iRobotの掃除ロボ「ブラーバジェット m6」がテーブルを清掃する。 - ロボット配膳「焼肉の和民」、“非接触”セルフレジのくら寿司 コロナ禍の飲食店、勝機はIT&ロボット活用にあり
「和民」ブランドから「焼肉の和民」へ全面転換したワタミ。配膳ロボットなどを活用してコロナ禍の難局を乗り越えようとしている。今回はワタミを始めとする各社への取材を通じ、テクノロジーとビジネスアイデアで飲食業がどう時代を生き抜いていこうとしているのかを紹介したい。 - 新型コロナで苦しむ飲食店を救えるか 食事代の先払いサービスを生んだ音楽プロデューサーの思い
食事代をネット上で先払いすることで、新型コロナウイルスの影響で売上減が続く飲食店を応援できる「さきめし」。福岡県に本社を置くベンチャーGigiが3月にそんなサービスを始めた。同社の代表取締役を務めるのは、安室奈美恵さんの「HERO」の作詞・作曲・編曲を手掛けた音楽プロデューサーの今井了介さん。今井さんに開発の経緯を聞いた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.