“まるで本物”日本刀、花札の3DCGを作る少数精鋭集団 こだわりでリアルさ追求 「目指すはナンバーワン」(2/2 ページ)
まるで本物のような3DCGを作る制作集団がいる。名前は「Bunnopen」(ブンノペン)。伝統工芸や文化にフォーカスした3DCGを手掛ける彼らに、結成の背景や制作の過程を聞いた。
ときには口うるさく指摘も
とはいえ自分たちは伝統工芸や文化の専門家ではない。見た人に違和感なく3DCGが受け入れられるには、精巧なモデルが求められる。そのため実地調査や、細かい調整を繰り返すことを心掛けているという。
例えば、Katanaの制作では室町時代や戦国時代の刀剣資料を調べた他、三重県桑名市の刀工及び刀の「村正」と縁が深い桑名市博物館、戦国大名の刀剣を展示する愛知県の徳川美術館などを訪れた。実物の日本刀を見て、刀を握る部分の柄(つか)、刀と柄の境目の鍔(つば)、刀をしまう鞘(さや)、模様の家紋など刀を構成するパーツを隅々まで確認したという。
制作には、よりリアルな光学現象を表現できる物理ベースレンダリング(Physically Based Rendering)を採用。制作の途中で形や模様の勘違いに気付き、作り直す作業を繰り返しながら完成に近づけた。
刀の種類は、戦で使われた「打刀」「太刀」、短刀の「脇差」、大型の打刀や太刀の「大太刀」を用意。デザインは村正の他に備前長船(岡山県)、美濃伝(岐阜県)など有名な刀剣の特徴を出すことにした。
例えば、相州伝(神奈川県)を模した打刀は刀部分の「刃文」に、太く線状に光る「金筋」や細い線状の模様「稲妻」を表現。大坪さんは「相州伝が華麗な刃文を持つことを表現しました」と説明する。
Katanaでは鞘や柄で色のカスタマイズが可能。家紋は20種類から選べ、金箔押して鞘に描くことができる。「3DCGモデルとしてゲームなどでの使用を想定し、ユーザーが好みのものを選べるよう色や質感など刀のバリエーションが出るようにしました」と大坪さんは話す。
精巧なモデル作りには、制作者以外のメンバーの確認や指摘も不可欠だ。花札の3DCGモデル「Hanafuda」を作った森さんは「紙の質感を表すのに井本から何度も指摘を受けました」と苦笑いしながら振り返る。
紙製の花札をよく見ると、絵柄の縁をくるむように裏側から紙がまかれている。「そうした質感を正確に表すため、『紙が本物に見えない』『札の角が違う』など口うるさく言いました」と井本さん。Hanafudaが動画でどう見えるかを確認しながら、細かい調整を重ねたという。
こうしたフローはKatanaや他の3DCG制作でも行われている。井本さんは「複数人の視点が加わることで1人では気付きにくい点にも目を向けることができ、ユーザーによりリアルに感じてもらうことにつながると思います」と話す。
3DCG制作でナンバーワンを
Bunnopenでは日本刀や花札以外にも、将棋、囲碁、オセロ、麻雀などのアセットをゲームやVRコンテンツを手掛ける企業、クリエイター向けに販売している。最近は広告ビジュアルに使われることもあるという。
とはいえ反響は「正直芳しいとはいえない状況」(井本さん)。「Bunnopenが作った3DCGモデルがもっと広まるには認知が課題です」と続ける。現在はこうしたアセット販売に加え、ゲーム制作のプログラミングなどの依頼を企業から受けマネタイズにつなげている。
しかし伝統工芸や文化に関連した3DCGの制作は、諦めずに続けていくという。今後は中国などで盛んな将棋「シャンチー」や、インド発祥の指で行うビリヤードのようなゲーム「カロム」といったモデルを作り、アセットとして展開する予定だ。
「われわれ日本人は細かな作業は得意といわれるのでその特長を生かした3DCGを作り、アセット制作のナンバーワン目指していきたいです」(井本さん)
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