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NFTの本当の可能性は「8月12日の三河屋のコーラ」にあり(2/3 ページ)

NFT(non fungible token)はあの漫画を知っている人は一発で理解できるだろう。

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NFTは「コピーを防止する技術」ではない

 こういう話になると「コピーができない作品を売っている」というふうに捉えられることが多い。だが、それは違う。NFTはDRM(著作権管理システム)ではないし、「作品自体」の複製を防げるわけでもない。作品のデータが消えたり、壊れたりするのも防ぐこともできない。

 分かりやすい例を挙げれば、画面に表示されたイラストや動画のデータをスクリーンショットでコピーすることを、NFTでは防げない。DRMを組み合わせればコピーを一時的に防ぐことはできるが、100%コピーされないようにする方法はない。

 NFTで「唯一である」ことが担保されるのは、作品のデータそのものではない。作品に付随する情報、すなわち「どのように供給され、どう売られたものなのか」という付帯情報だけなのである。

 これは、美術品と鑑定書の関係にたとえられることが多い。鑑定書は美術品を守らないし贋作の製造も防がないが、作品と一緒に保管されていれば、美術品の来歴を担保しやすくなる。その鑑定書がコピーしづらくできているのがNFT……というロジックである。

「8月12日の三河屋のコーラ」が示す来歴の価値

 ただ、筆者はもう少し別の例えの方が、NFTの本質を表現しやすい、と思っている。

 それが「8月12日の三河屋のコーラ」だ。

 何の話なの? と思われるだろう。「あれかー!」と思いついた人は、相当な藤子・F・不二雄ファンである。

 ドラえもん第9巻には「王かんコレクション」という話が掲載されている。

 この話では、スネ夫に高価な切手コレクションを自慢されたのび太が、ドラえもんに「流行性ネコシャクシビールス」を出してもらい、その力で「王冠のコレクションが大流行する」状態を作る。

 のび太の王冠コレクションの中で最も希少性の高いものとしてアピールされたのが、通称「8月12日の三河屋のコーラ」だ。

 のび太が8月12日に三河屋で買ったコーラから得た王冠なのだが、その日に三河屋で売れたコーラはこの1本。結果として「世界で1つの王冠である」ということで、最終的にはコレクターが200万円で買いに来るのだが……というお話だ。

 もちろんこれは、ある種の皮肉として描かれたものである。

 どこにでもあるコーラの王冠であっても、希少性が認められ、そこに皆が価値を感じるならば金銭的な意味も生まれる。スクリーンショットで見た目がコピーできるデジタルコンテンツと、どこにでもある量産品である王冠には、似た部分がないだろうか。

 という話をすると「じゃああなたは、NFTは無価値であり、うわついたものだと思っているのか」と指弾されそうだ。

 確かに、妙に価格が高騰したりする部分には疑問もあるし、「唯一性」を担保するために必要なシステム全体での消費エネルギーについて、価値と環境負荷のバランスはどうなのだろう、という疑問も持っている。

 しかし、NFTが無価値とは思わないし、それを揶揄(やゆ)するつもりも毛頭ない。むしろ非常に重要な、可能性のある技術だと思っている。

 その根本はどこか? それは「来歴に価値がある」という点だ。「8月12日の三河屋のコーラ」も、コーラの王冠であることに価値があったわけではない。三河屋という店で特定の日に買った唯一のものであることを、コレクターとしてのオリジネイターであるのび太が担保している点が重要なのだ。別の言い方をすれば、それはコレクターとコレクションそのもののキュレーションから生まれる価値であり、売った店との関係で生まれる価値でもある。

 これを別の言い方で示すなら、「作品について、売った人と買った人のつながりを担保する」ということになる。「この作品データは、作者からAさんに直接販売された、真正なものである」と担保されている情報がついたものと、単にコピーされたデータとでは、価値は同じにはならない。

 だからこそ、特に「作者とつながる」ことに価値がある作品でこそ、NFTは大きな意味を持つと考えている。最終的に作品の「見た目」は勝手にコピーされたとしても、「この作品を本当に所有しているのはAさんで、Aさんはそれだけの価値をクリエイターに提示し、クリエイターもその結果としてのNFTを渡した」という情報がついたことで、買った人にはリスペクトが残り、クリエイターは対価を得る。そして外部からはNFTの価値が「そのコンテンツが持つ価値の客観的指標」となって残る。

 美術品は写真や映像でいくらでも見られる。複製画だってある。だが、正当な鑑定書のついた本物は、また別の価値を持つ。そして「誰のコレクションに所蔵されているのか」「どこが鑑定したか」にも価値が存在する。

 NFTによる価値の担保とは、そうした美術品のもつ特性に近いが、それをもっともっとカジュアルなものに変えるはずだ。

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