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AirTagが示した「巨大メッシュネットワーク」の時代(1/2 ページ)

Appleの探し物ネットワークはサードパーティーの類似製品・サービスとはスケールが大きく違う。西田宗千佳さんがその背景を解説。

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 一般には4月30日にAirTagが出荷される。その出荷案内が届いた方も多いだろう。いち早くこの忘れ物防止タグを体験した西田宗千佳さんが、AirTagの背景にあるAppleの「Find My」ネットワークについて解説する。


 Appleの新製品発表で何に最も注目したのか?

 そう問われると「AirTag」としか言いようがない。AirTagの可能性については、この週末にかなりしっかりとしたテストを行い、Business Insider Japanへと記事を寄稿したので、そちらをお読みいただきたい。

 だが、AirTagが拓(ひら)いた可能性は「忘れ物防止」という話にとどまらない。その先が非常に大きいのだ。多少(いやかなり)の想像を含め、その可能性について触れていきたい。

この記事について

この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2021年4月26日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから。さらにコンテンツを追加したnote版『小寺・西田のコラムビュッフェ』(月額980円・税込)もスタート。

AirTagがわれわれに見せたものは何だったのか

 AirTagの本質とは何か? それは、AirTag自体には低出力・短距離通信の機能しかついていないにもかかわらず、世界中に広がったiPhoneのネットワークを活用できている、という「メッシュネットワーク性」にある。

 AirTagは、近くにあるiPhoneやiPadと裏で勝手に通信し、暗号化した上で自分の最新の場所データをAppleに残す。ユーザーはそのうち、自分のもの(すなわち、自分のApple IDにひも付けられたもの)の情報だけを取り出せる仕組みになっているので、「AirTagが付いた機器を探せる」仕組みになっている。

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iPhoneの「探す」アプリ

 Appleはこのネットワークを構築済みだった。iPhone、iPad、Mac、AirPodsからApple Watchに至るまで、全ての機器が周辺の他のApple機器と情報を交換しあい、「場所を記録する」仕組みになっている。ユーザー目線で見れば、自分のものをどこに忘れたか、どこでなくしたかを見つけられるわけで、とても便利なものではあった。

 AirTagの登場により、ここに「通信機器」以外を組み込むことができるようになったのが大きい。

 発想そのものは特殊ではない。「Tile」や「MAMORIO」など、同様の発想による忘れ物防止タグは存在するし、COCOAに代表される「接触通知API」を使った疫病対策も、Bluetoothとスマートフォンを組み合わせたメッシュネットワークを使うものである。

 ただ、忘れ物防止タグは「タグが普及しないと価値が生まれづらい」という欠点があり、接触通知APIには、自分だけでなく接触した人々のプライバシーを守らねばならない、という大きな命題がある。

 別の言い方をするならば、「たくさんの機器が世界中に存在する」「プライバシー保護のため、自分の持つ機器の最新の情報しか記録せず、履歴は分からない」という2つの条件がそろっていないと利用しづらい部分がある、ということでもある。

 メッシュネットワークを使うと、個人の位置や行動履歴が特定しやすいのは分かっている。マーケティングなどの目的で利用したいという声はあるし、今も匿名化し、さらに許諾を得た上で使う例はある。中国などの場合には、プライバシー保護よりも治安や利便性を優先して活用している場合もある。

 可能性・利便性・プライバシーのバランスの中で生み出されたのがAirTagの「忘れ物防止タグ」ということになる。

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