AirTagが示した「巨大メッシュネットワーク」の時代(2/2 ページ)
Appleの探し物ネットワークはサードパーティーの類似製品・サービスとはスケールが大きく違う。西田宗千佳さんがその背景を解説。
AirTagが拡大する「メッシュネットワーク」の可能性
AirTagが成立するのは、AirTagのために多数の機器を普及させるのではなく、すでに世界中にある数億あるいはそれ以上のデバイスを使える、という数の論理にある。
これだけの数によって構築されるメッシュネットワークは例がない。先行する企業からすれば「不公正」と感じるかもしれない。だからこそAppleは、「探す」機能で使うネットワークをサードパーティーにも開放する発表を、AirTag発表前の4月7日に行っている。これは、Appleにとってネットワークサービスを生かすための方針であり、同時に独占禁止法で訴えられるリスクを軽減する試みでもあるだろう。
現状、このネットワークは「失せ物探し」に特化している。前述のように、それがネットワークの価値とプライバシーのバランスを取る上でベストな選択肢だからだ。
だが、携帯電話ネットワークよりも粒度が小さく、いろいろな情報を取得できるメッシュネットワークには、もっと多様な可能性があるだろう。
例えば、気温や湿度が1m単位で分かったら? 行列の長さが並ぶ前に分かったら? 周囲の騒音の状況やサイレンの音から治安が分かったら? マーケティングに生かしたいという人だけでなく、自分たちの生活を豊かにするアイデアがあるとしたら?
過去、携帯電話ネットワークの帯域は貴重なものだった。各ユーザーが使う「ケータイのパケット通信料」は、少なければ少ないほどよかった。
だが、5Gが広がりつつある今、多少のデータが流れることは問題にならない。自分のためだけの情報が流れるのではなく、周囲のセンサーから得られたデータも流れ、その価値をネットワークに参加する人全てで共有するようになる。AirTagと「探す」ネットワークはその分かりやすい例といえるだろう。
Appleは、これまでに販売したiPhoneとiPadの数を生かすことで、こうした巨大なネットワークを作り上げた。今後それをどのようなプラットフォームとして活用していくのだろうか? 現状は「忘れ物防止」という観点しかないが、次の可能性をどう考えているのだろうか?
では、Googleはどうだろう? プラットフォーマーの中で同じことができそうなのはGoogleしか残っていない。彼らは1社でなく複数の企業に開かれたネットワークを作ることになるだろう。また、Appleのように「ハードウェアの販売」でなく、ネット上の広告を収益の大きな柱とする立場で、「プライバシー」という錦の御旗をどう扱うのだろうか?
AppleやGoogle以外の企業が展開する可能性はどうだろうか? 前出のように、中国とそれ以外では扱いが違う。他の国であっても、プライバシーと利便性の関係をどう考えるかは難しい。
今はまだ可能性や懸念に過ぎないが、AirTagの力はその一端を示したと言って間違いはない。ここから次の世界がどうなり、どう使われていくのか? さまざまな条件や可能性を考えるべきは、まさに「今」なのだ。
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