ユニクロのセルフレジ特許権侵害訴訟を現状整理する 知財高裁で勝っても戦況が明るくない理由(2/2 ページ)
特許を巡る巨人とベンチャーの戦い。知財に詳しい弁理士、栗原潔さんによる解説。
知財高裁で勝ったから勝利、と簡単にはならない理由
同じ特許6469758号に対して、ファーストリテイリング側が2回目の無効審判を請求しているからだ。特許法上、同じ当事者が同じ証拠に基づいて再度無効審判を請求すること(いわゆる、蒸し返し)は許されない(一事不再理)。しかし、この2回目の無効審判では別の証拠群が使用されているため、制度上は認められる。
この2回目の無効審判では、2021年4月8日付で全請求項を無効にするとの審決予告がなされている。アスタリスクは特許範囲をさらに限定する、あるいは、審決後に審決取消訴訟を提起することで対抗することになるだろう。
さらに、特許6469758号の分割出願の特許化である特許6532075号について、2021年5月13日に、特許を無効としないという審決がなされている。
これに対して、ファーストリテイリングはほぼ確実に審決取消訴訟を提起することになるだろう。特許6532075号は特許6469758号の小規模なバリエーションであり、おそらくは侵害訴訟でも使用されていると思われる。
アスタリスクは特許6469758号のファミリー化を進め、現在、4件の分割出願を特許化し(なお、その全てにファーストリテイリングによる無効審判が請求されている)、1件の出願を審査係属中として維持している。
戦略性が高い特許は1件取得して終わりというのではなく、分割出願制度を活用してさまざまな切り口からの特許化を行い「特許の束」を作ることが重要である。特に、審査係属中の出願を維持することは、進行中の審判や裁判の動向に応じた柔軟な補正(無効を避けつつ、侵害を立証できる範囲の権利化)ができる点で有利だ。
なお、最初の出願後に新たな事項を追加することはできないので、この戦略を取るためには、最初の出願時点でさまざまな権利化を見越した記載の厚い明細書を作成しておく必要がある。
長期化すれば体力的にアスタリスク側が不利か
ということで、今は両社にとって良いニュースと悪いニュースが混在した状態だ。いずれにせよ、これらの特許権の無効・有効が確定するまでは侵害訴訟の中止状態は続くと考えられ、最終結論が出るのはだいぶ先になりそうだ。
特許権侵害訴訟において被告側が無効審判を請求し、審決に納得いかない場合には取消訴訟が提起され、さらに取消訴訟の判決にも納得行かない場合には最高裁に上告される、
また、原告側が分割出願を繰り返し特許権の束で攻めるというパターンは特別なことではなく、一般的に見られるものだ。しかし、裁判が長期化するとリソースが乏しい小企業が不利になってしまう点は否めない。
これは、どうしようもないことなのだが、せめて審判、裁判のさらなるスピードアップにより、この弊害を最小化してほしいと個人的には希望している。
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