“FAX全廃議論”で再考する、ITリテラシーと信頼関係の問題:小寺信良のIT大作戦(2/2 ページ)
コロナ禍でテレワークを経験してからの世代に求められているITスキルと、それにまつわる問題を考えた。
ITと信頼と
来年(2021年)度、専門学校と高校進学の娘をダブルで抱える筆者としては、自分の身を守るためのITリテラシーに加え、就活戦力となるITリテラシーをどうやって身に着けさせるのかは、子どもたちの将来にも関わることであり、深刻な課題である。
高校でも「情報」が必修科目となったところだが、普通科では具体的な資格の取得まで積極的に動いているところは少ない。他方で商業高校では、これまでの簿記やビジネス文書だけでなく、ITパスポートや基本情報技術者試験のような資格を取らせる情報処理科や経営情報科といったコースが人気となっている。
まさに全国の商業高校は、「情報」という科目ができた2003年ごろから数年かけて大転換を図り、情報系専門高校として生まれ変わった。
全国の商業高校の偏差値を調べてみると、甲子園でよく見掛ける福井商業高校や高松商業高校は偏差値58ぐらいあり、もはや地方の普通科高校よりも高い。
筆者が高校生だった40年前は、普通科に届かない子が商業高校に行くという格好だったが、そうした考えはもう古い。筆者の地元にある宮崎商業高校でも偏差値53ぐらいになっており、平均点取ってるぐらいの子ではもはや行けない高校になっている。
高校普通科は大学進学を目的としたコースなので単純な比較はできないが、資格を取らせてくれる高専や商業高校の方が就職に有利という話は、今後ITリテラシーという切り口で、別の意味が加わる。IT知識ゼロではない担保としてのIT系の資格は、専門職だけでなく一般職においても、今以上に重視されてくるだろう。
その一方で、このままテレワークでずっとやれるのか、あるいは新入社員がテレワークが可能なのかに対して、懐疑的な人の声も大きくなっているように思う。
つまり、こうだ。
離れていても仕事が成立するのは、これまでに築き上げた人間関係や信頼関係があるからである。つまりテレワークとは、これまで積み上げてきた「信頼貯金」を切り崩しているだけなのだ。信頼貯金は減っていくと関係性が怪しくなっていくので、どこかの段階で実際に会う、雑談する、プライベートで遊ぶ、飲みに行くなどして、また「信頼貯金」の残高をチャージするしかない。
ところが最初からリモートで入ってくる新入社員に対しては、もともと貯金がゼロである。これは新入社員側にとっても、先輩に対する信頼貯金がゼロであることを意味する。そうした信頼貯金を積み上げるチャンスもないまま業務になだれ込んで、成立するのか。そういう心配である。
こればかりは、IT知識OKです、だけでは解決できない。その人が信頼できるかどうかを、どこでどう見るべきなのか。
プライベートで仲良くなった相手は、そこそこ信頼貯金がデカいのではないかという経験則はあるものの、じゃあ具体的にこうすれば信頼関係が高まるみたいな方法論は、経験則+精神論みたいな、意識高い系みたいなものしか存在してないのではなかろうか。いやそもそもテクニックで築き上げた信頼は、欺瞞(ぎまん)ではないのか。
米国企業のように、成果主義で雇用・解雇がスパスパ決まるような社会ならテレワークも難しくはないだろうが、日本の雇用制度は労働者の保護に手厚い。いったん雇い入れた人材は、アルバイトであろうと簡単には解雇できない。そうなれば、雇い入れる時点に全てがかかってくる。
面接すらもリモートになる中、採用担当者はITリテラシーだけでなく、信頼性の問題までも責任を負うことになる。これから能力が試されるのは、むしろ企業側ではないだろうか。
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