経営者・平井一夫氏はソニーをどう復活させたのか 15年追ってきた記者が『ソニー再生』を読む(3/3 ページ)
長年ソニーを追ってきた西田宗千佳さんによる経営者・平井一夫論。
「後を濁さず」だが課題は残る
平井氏はソニーの建て直しの際、現ソニーグループ社長の吉田憲一郎氏を中心とした「チーム平井」を主軸に据えた。彼らの意見を平井氏が選択し、形を作っていくことで今のソニーグループは出来上がっている。
スティーブ・ジョブズがiPod以降、Appleを巨大な成功に導けたのは、物流の天才である現Apple CEOのティム・クック氏を中心としたチームがいたからだ。結局ハイパーディレクター型であっても良いチームがないと巨大な会社は支えられない。同様に、平井氏も良いチームに支えられてソニーを立て直すことができた。
あえていえば、平井ソニーはビジネス上持続的収益を上げる仕組みを整える、という意味では成功を収めたが、「次のヒットの種を芽から幹にまで育てる」ところまではいけなかった。エレクトロニクスでのヒット製品に頼る、という古典的なモデルから脱却し、持続的にチャレンジできる環境は整ったが、ソニーというブランドに求められる「見たことのないもの」は生み出していない。
これはある種、ブランドに染み付いた呪いのようなもので、こだわり続けるべきではないのかもしれない。Appleも同様に、今はブランドの継続的な改善でヒットを生み出している。そもそも「不連続な変化はそうそう生まれない」ものだ。だが「継続的なブランド製品の進化」以外を求められてしまうのも、また事実。ソニーで新しい芽は、まだ育ちきっていない。
また継続型ビジネスの中でも、結局PlayStation Network以外のネットサービスを根付かせることはできなかった。本当はNetflixやSpotifyに代表されるサービスは、ソニーからも生み出せていたはず。それが果たせずパートナーとの協業になったことの評価は読んでみたかった。
おそらく、こうしたジレンマはそのまま吉田氏に引き継がれている。しかし平井氏は吉田氏に完全にバトンを手渡した。その「手渡しっぷり」、引き際の良さは、平井氏らしいところといえる。平井氏は相当に「引き際の良くない人々」に困らされた経験があり、後を託す盟友たちにはその苦労はさせたくなかったのだな、と感じている。それは2018年2月にも感じたのだが、本書からはさらにその印象を強くした。そうしたある種の潔さは、平井氏の美点だと思っている。
最後に1つ。
これは「たられば」のレベルだが、久夛良木氏のようなハイパーディレクターをプロデュースする平井氏の姿も見たかった。それは、丸山氏が久夛良木氏をプロデュースした姿に重なる。タイミングや巡り合わせがまた違えば、「プロデューサー・平井」の姿はもっと目立ったのではないか、とも思うのだ。
平井氏がプロデュース業の中の「土壌づくり」に終始したことを、ご自身がどう評価しているのか。それは本書の中であまり語られなかった部分である。
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