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結局、「漫画村」は死んでないのではないか小寺信良のIT大作戦(3/3 ページ)

法改正が効いたのならなぜ類似サイトが繁栄しているのか。漫画村運営者への判決が出た後、状況はどう変わったのかを分析する。

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漫画村とリーチサイト規制

 リーチサイトとは、直接データを持たない、海賊版へのリンクしか貼っていないということで違法性を逃れようとした手法である。リーチサイト規制は漫画村と直接の関係はないが、漫画村と前後してできた「はるか夢の址」のような、違法アップロードされた漫画へのリンクを掲載していたサイトを違法化するもので、これを盛り込んだ改正著作権法は20年10月より施行された。

 リーチサイトといえども結局はアップロード者と密接な関係がなければ成立しないので、アップロードを幇助したとして違法アップロードで逮捕できる可能性もある。はるか夢の址の運営者も、リーチサイト規制実施前どころか、漫画村運営者よりも早い17年の段階で逮捕されている

 ハイパーリンクはインターネットの根幹をなす技術であり、これを的確に規制することは非常に難易度が高い。施行後たった1カ月で早速リーチサイト運営者が逮捕されているところからしても、めちゃめちゃ斬れるがいつこっちも斬られるか分からないという、非常に危なっかしい規定である。

漫画村とダウンロード違法化

 アップロードする者を規制するだけでは効果がないとして、違法コンテンツをダウンロードする者も取り締まるという方法論は、07年ごろから提唱されてきた。各所から反対意見が多数寄せられたが、これを盛り込んだ改正著作権法が09年に成立、10年1月より施行された。加えて12年には懲役刑を含む罰則規定も盛り込まれた。ただこの段階では、音楽と映像作品のみが対象とされていた。

 これが「漫画村」事件を受けた法改正により、全ての著作物が違法化・刑事罰化の対象となった。これは21年1月から施行されている。それにも関わらず、今になって模倣サイトのアクセス数が当時の漫画村を上回るとはいったいどういうことか。

 つまりダウンロード違法化は、施策として効いていないということではないのか。

 そもそも月間3億アクセスとも言われる現在の海賊版サイトの利用者は、どれぐらいだろう。アクセス数の1000分の1だとしても30万人である。それだけの被疑者を起訴するのは非現実的だし、自分は捕まらないと思い込むには十分な数字である。見せしめとして悪質な誰かを逮捕することはあるかもしれないが、その萎縮効果は一時的なもので、多くの人はそのニュースを忘れてしまう。違法化を逆手に取った訴訟詐欺が多発し、逆に治安が悪化する可能性もある。

 音楽や動画の違法ダウンロードが減った根本的な原因は、優秀なサービスがたくさん現れて、違法サイトへアクセスするよりも便利になったからだろう。これは故スティーブ・ジョブズの予言通りである。逆に漫画の違法サイトが減らないのは、現状のサービスは便利じゃないからではないのか。

 筆者は漫画をそれほど熱心に読むわけでもなく、寝る前に思い出したように読む程度だが、読みたいと思う漫画を追いかけていただけなのに、いつの間にか14ものアプリをインストールする羽目になっている。これだけあるとどのサービスにどの漫画があったか全く覚えられず、もう何カ月も続きを読むのを忘れているものもきっとあるはずだ。

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いつのまにか集まってしまった漫画アプリ。これで「便利になった」と言えるだろうか

 各出版社や漫画家自身が優良な電子書籍化に向けて取り組んでいるのは認める。だがプラットフォームがバラバラすぎるために、読者側はもうワケがわからなくなっているのが正直なところだ。漫画のヘビーな読者ほど、プラットフォーム関係なく集まっている海賊版サイトの方が便利に感じてしまうのではないだろうか。

 漫画ビジネスは音楽や動画と違い、欧米から強力なプラットフォームが参入してくる可能性が低い分野だ。日本でのビジネスモデル確立が求められるところだが、取り組み規模が小さく、その結果が「海賊版の方がマシ」では、ユーザーは付いてこない。

 同じ海賊版対策に知恵を絞るなら、著作権法をいじくり回すより、ユーザーが使いやすい一気通貫のプラットフォーム立ち上げに注力すべきだろう。コンテンツは値段が問題ではなく、常に「便利な方が勝つ」のだ。

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