「メタバース=スノウ・クラッシュ」で本当にいいの? メタバースはコンピュータの歴史そのものだ(3/3 ページ)
メタバースとは何か。西田宗千佳さんが改めてその定義を考えてみた。
「理想的メタバース」への長い道のり
そう考えると、シンプルなメタバースは今もあるし、いくらでも作れることが見えてくる。
だが「世界として認識できる」ことが重要であると考えると、まだまだ課題は多い。
一番大きな課題は「何人が同時に参加できるのか」という点だろう。
世界を感じる上で多人数であることが必然ではないが、少数ではチャットサービスとの差別化が難しい。ゲーム空間を使ったライブイベントなどは多数存在するが、「密を感じるような盛り上がり」にはなりづらい。一カ所に数十人・数百人が簡単に集まれる状況を作るのはなかなか困難であり、今は相当に表現をシンプル化しないと実現できない。
次の課題は「メタ性の構築」だ。
1つのサービスの中にユーザーのワールドが複数あるのはいいが、それも結局はサービス運営企業のポリシーの中で作られるものにすぎない。Webが自由な空間であるのはオープンな規格の上で自由に作られているからであり、だからこそWebは「最もシンプルなメタバース」でもある。
今後本物の、実存感のあるメタバースを構築するならば、1企業の手のひらの上でサービスを構築するのではなく、それぞれの企業のサービスが相互に接続し、キャラクターや資産という意味での「アイデンティティー」を移行できる形を目指す必要がある。NFTなどの活用がメタバースとともに語られるのも、ワールドをまたいだ利用が想定できるからだ。
どちらにしろ、世界同士・キャラクターアイデンティティーや機能同士の「相互接続」をどうするのか、という課題が残っている。ここはまだ確たる手段ができているわけではない。
キャラクターモデルという意味では、バーチャルキャストが進める「VRM」というフォーマットを軸にした「THE SEED ONLINE」がそれに近い発想だし、NVIDIAが推進する「NVIDIA Omniverse」も、複数のツールによるインタラクションという意味ではメタバース的だ。
おそらく当面は、企業単位で「バリエーションのあるネットサービス」としてのメタバースが先行するだろう。プラットフォームとしてはそれが一番の近道だ。ビジネスとしてのうま味も分かりやすい。短期的なビジネスマターとして語られる「メタバース」は、ほとんどがこの種のものだろう。
その先で今のWebのような生活基盤を構築していくには、やはり何らかの共通規格化が必要だ。それを企業がリードしてどううま味を取るのか、という話は出てくるだろう。
どちらにしろ、もろもろの課題を解決するには相応の時間を要する。1年や2年で変わるわけではない。
バズワードとしての「メタバース」は短期で終わるだろうが、コンピュータの利用形態が進化した姿としてのメタバースは、かなり長期的なビジョンになるはずだ。すでに述べたように、その発想は1970年代からあり、ネットワークとコンピュータの進化の歴史そのものでもある。
ようやく原始的ながらVRが「商業」の世界になってきて、ARももうすぐ一般化する可能性が高い。その歩みは皆が思うほど早くないと想像しているが、同様に、メタバースもゆっくりと理想の形へと、段階を経ながら進化していくのではないだろうか。
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