まるで“SIer版ヤシマ作戦” 「エヴァ」公式アプリを配信基盤含め1カ月で開発 エンジニア2人の失敗できない挑戦記(1/2 ページ)
リリースは1カ月後、プロジェクトに参加するエンジニアは2人という状況で「シンエヴァ」公式アプリの開発に挑んだSIer。仕様や配信基盤もほぼ決まっていない中、なぜ1カ月でリリースにこぎつけられたのか。2人が挑んだ“SIer版ヤシマ作戦”を探る。
「2019年7月1日までに必ず出さなきゃいけないと言われたのが同年4月末。アプリの審査に最大1カ月掛かると考えると、開発とインフラの用意を1カ月でこなさなくてはいけなかった。失敗できないので、頭の中ではずっと『ヤシマ作戦』の曲が流れていた」──Web開発などを手掛けるeffective(東京都港区)の磯貝重之CTOは、同社が手掛けたスマートフォンアプリ「EVA-EXTRA」の開発当時をこう振り返る。
EVA-EXTRAはカラーや「エヴァンゲリオン」シリーズ(エヴァ)のライセンス管理を手掛けるグラウンドワークス(東京都杉並区)と共同開発した、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」(シン・エヴァ)シリーズの最新情報や、エヴァシリーズのミニゲームを提供するPR用アプリだ。カラーなどの都合により、発注はギリギリのタイミングにもかかわらず要件はほぼ未定、アプリ自体や配信基盤の仕様も決まっていなかったという。
人員を増やすと逆に開発に時間がかかると想定したため、プロジェクトに参加したのは磯貝さんと、effectiveの茂木寛記さん(上級エンジニア)の2人だけ。時間もメンバーも少ない状況で挑んだ“SIer版ヤシマ作戦”の裏側を磯貝CTOに聞いた。
「決まっていた仕様は2つだけ」インフラ整備と開発を並行して進行
そもそもeffectiveに案件が回ってきたのは、シン・エヴァの配給を手掛ける東映による紹介があったためだ。過去にPR施策の効果計測ツールの開発を東映から受注した経験があり、それがきっかけになったという。
「はじめに案件の話を聞いたときは『世界的に有名なコンテンツがすごく短い期間でアプリを作りたがっている』としか教えてもらえなかった。やりますと答えたらシン・エヴァの話題でびっくりした」
納期などの詳細も聞いていなかったが、もともとeffectiveが要件などを顧客と一緒に話し合いながら開発を進めるスタイルを採用していたことから相性が良いと判断し、受注を決めたという。
しかし、当時決まっていた仕様は「アプリとしてリリースする」「7月6日に行うイベントをライブ配信する」のみ。どんなコンテンツを掲載するか、配信基盤をどうするかは決まっていなかったため、詳しく要件定義や分業をしている時間はないと判断。配信基盤の構築と、開発・要件定義をそれぞれ並行して行うことにした。
基盤構築は2〜3日で、さくらのクラウドとAWSのCDNを併用
配信基盤の構築ではまず、利用するインフラの選定が課題になった。effectiveはこれまでIaaSを使った案件に取り組んだことがなく、社内に専門人材もいなかったためだ。
そこで磯貝CTOは、案件を受けたときの会議に、企画のサポーターとして同席したさくらインターネットの責任者や、情報セキュリティ企業のゲヒルンの代表・石森大貴さんに相談。ゲヒルンがさくらインターネットの子会社なこともあり、両社のサポートを受けながらIaaS「さくらのクラウド」で基盤を構築することに決めた。
Amazon Web Services(AWS)も検討したが、設定するパラメータが多く、作業に時間が必要な可能性があり断念したという。ただしコンテンツ配信に使うCDN(コンテンツ・デリバリー・ネットワーク:複数の別サーバがサーバ本体に代わってコンテンツを配信する技術)のみ、セキュリティの都合からAWSの「CloudFront」を採用した。
こうして始まったさくらのクラウドを活用した基盤構築。構成の検討から実際に環境を作り上げるまで、およそ2〜3日で完了できたという。短時間で基盤を構築できた理由について、磯貝CTOはこう分析する。
「さくらのクラウドは良くも悪くも設定項目が少なくシンプルで、迷う点があまりない。さくらのクラウドにはサービス内のGUIでシステムの構成図を描ける『マップ』機能があり、これもかなり助かった。AWSなどでは構成図を外部サービスなどで整理するが、マップ機能では実際の構築中に構成を表示してくれるため、各種IDの整合性が確認しやすかった」
こうして構築した基盤では、キャッシュできるコンテンツはCloudFrontからエッジサーバを介して配信。ユーザー情報を保存したり、ユーザーの入力によって内容が変わるような“動的”なコンテンツを配信したりするアプリサーバはさくらのクラウドで運用する構成を採用。各種データべースなどもさくらのクラウド上に設置したという。
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