「誰でも使えるシステムがすぐ必要だった」 オンライン授業迫られた文系大学の奔走 タイムリミットは2週間
新型コロナウイルスの影響を受け、オンライン授業の実施を迫られた小樽商科大学。教員内のITリテラシーに格差があり、シンプルで安価な配信システムを2週間で構築する必要があった。
「本学は文系の大学で、最新の教育システムを使いこなせない教員がほとんどだった。オンラインで教材を配信するためには、誰でも使えるシステムを作らなければならなかった」──小樽商科大学の江頭進理事は、コロナ禍を受けて構築したオンライン教材の配信システムについてこう話す。
小樽商科大は1911年に開校した社会科学系の国立単科大学だ。同大ではコロナ禍の影響を受け、4月中の全面休校を決定。ゴールデンウイーク明けからオンライン授業を実施することも決めた。
当初はYouTubeを使って講義の動画を学生に公開し、既存の学内システムでレジュメなどの補助教材を提供する予定だった。だが、講義で使用する書籍などをYouTubeにアップロードする際、出版物の著作権を侵害してしまう可能性があり断念。このままでは動画教材の配信は難しいとして、学生向けに独自の配信基盤を構築することを決めたという。
しかし、これを決定したのは3月下旬。教材を作成し、アップロードする時間などを含めると、オンライン授業の開始日までに残った猶予は2週間ほどだった。20年度に使える予算も既に決まっており、なるべく少ないコストでシステムを完成させる必要があった。
問題はもう1つあった。同大には高齢の教員が多く、ITに不慣れな人がほとんどだった。中にはコンピュータに触れることすら嫌がる教員もおり、彼らでも使えるシンプルなシステムを構築しなければならなかった。
IaaS導入で窮地を打開 約2500本の教材を安定して配信
そこで同大は、共同研究の打診などでつながりがあった日本オラクルに相談。同社が提供しているIaaS群「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)を、オンライン教材の配信基盤として採用することを決めた。
江頭理事によれば「Microsoft Azure」や「Amazon Web Services」(AWS)など他社のIaaSの利用も検討したが、いずれも予算や期限内での構築が難しく断念。コロナ禍の影響で首都圏まで移動することも難しく、相談や契約をオンラインで行えることもOCIを選ぶ決め手になったという。
その後、小樽商科大はOCIを使ったオンライン教材配信システムを2週間で構築。ゴールデンウイーク以降、2290人の学生に向け、動画コンテンツやその補助教材を約2500本配信している。
江頭理事によれば、学生が動画を視聴できないといったトラブルは8月現在までに確認していないという。システムの構築にかかったコストも想定より安く、当初計画していた予算の半分程度で済んだという。
システムの設計を担当した学内の教職員からは「(設計は)時間との勝負だった。今回はOCIのシンプルさに助けられた」などの声が上がっている。
教員からも使いにくさを訴える声は出ていない。高齢の教員らも、技術担当者が作成したマニュアルで使い方を習得したという。
小樽商科大は、今回のシステム構築で得られた知見を生かし、21年度をめどに学内の知的財産をデータベース化する取り組みも行う予定。江頭理事は「今後もアナログな手間を省くことで、経営や研究開発を効率化できると考えている」と話している。
「Cloud USER」特集:コロナ時代のクラウド活用
新型コロナウイルス感染拡大に伴って、企業はテレワーク導入などの体制変更を強いられた。新しい働き方に適したIT環境を築く上で、大きな鍵を握るのがクラウドの活用だ。
サーバやストレージ、仮想デスクトップ、ビデオ会議、チャット――。インフラや業務アプリにクラウドを使うと、企業は必要に応じてリソースの拡大縮小を行える他、場所を問わない意思疎通を可能にし、柔軟な働き方を実現できる。
だが、クラウドも万能ではない。オンプレミスよりもセキュリティ管理が難しく、障害発生のリスクもある。
企業はどうすれば、課題を乗り越えてクラウドを使いこなし、働きやすいIT環境を実現できるのか。識者やユーザー企業への取材から答えを探る。
第1回:コロナ禍でテレワーク普及も、日本はクラウド後進国のまま? その裏にあるSI業界の病理
第2回:「リモートアクセスできない」――コロナ禍のテレワーク、ITインフラの課題が浮き彫りに 打開策は「クラウド」が首位
第3回:コロナ禍でFAX・Excelから脱却 感染者データをクラウドで管理 ITで変わる自治体の今
関連記事
- 豪雨で水没寸前だったサーバをクラウド移行 「獺祭」の旭酒造・桜井社長が語る「テクノロジーとの向き合い方」
日本酒「獺祭」の蔵元である旭酒造は7月から、顧客管理システムを米OracleのIaaSに段階的に移行している。2018年の西日本豪雨で被災し、BCPの重要性を実感したためという。旭酒造の桜井一宏社長に、今後のテクノロジー活用の展望を聞いた。 - 小樽商科大、オンライン教材の配信基盤に「Oracle Cloud」導入 2000人超の学生が使用
日本オラクルが、小樽商科大学に「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)を提供。同大は5月から、オンライン教材の配信基盤としてOCIを使っている。配信システムを使っている学生は2290人。 - 後発のOracle Cloudは、どうすればAWSやAzureに対抗できるか 日本市場での挽回策を考える
2019年5月にクラウドデータセンターを東京に開設し、Oracle Cloudの国内展開を本格化した日本オラクル。同年8月までに500社が東京リージョンの利用を開始したが、AWSやAzureからは市場シェアで大きく引き離されている。同社は今後、どうすればライバルベンダーに追い付けるのか。 - 創業103年の老舗メーカー、社内向けFAQサイトを「Oracle Cloud」で構築 問い合わせ対応を効率化
日本オラクルが、創業103年の老舗メーカー・岡部に「Oracle CX Service」を提供。岡部は構造機材、土木製品、バッテリー端子など多様な製品を取り扱っており、社員からの技術的な問い合わせが多かった。クラウド活用によって業務効率化を図る。 - アパレルブランド「BEAMS」、損益計算書の作成にOracle Cloud導入 作業時間を10日から2時間に
日本オラクルが、アパレルブランド「BEAMS」を展開するビームスHDに「Oracle EPM Cloud」を提供した。ビームスHDは、店舗と事業部での損益計算書の作成に同ツールを使用。作業時間を従来の10日間から2時間に短縮した。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.