豪雨で水没寸前だったサーバをクラウド移行 「獺祭」の旭酒造・桜井社長が語る「テクノロジーとの向き合い方」(1/2 ページ)
日本酒「獺祭」の蔵元である旭酒造は7月から、顧客管理システムを米OracleのIaaSに段階的に移行している。2018年の西日本豪雨で被災し、BCPの重要性を実感したためという。旭酒造の桜井一宏社長に、今後のテクノロジー活用の展望を聞いた。
日本酒「獺祭」の蔵元である旭酒造は7月から、顧客管理システムを米OracleのIaaS群「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)に段階的に移行している。酒販店と個人顧客の連絡先や取引履歴を管理するシステムで、8月頭までに約6割の移行が完了。終了は9月末の予定だ。旭酒造の桜井一宏社長は「従来は自社サーバに顧客のデータを保存していたが、2018年の西日本豪雨でBCP(事業継続計画)の重要性を実感し、クラウド移行を決めた」と説明する。当面は行わないが、ゆくゆくは、酒造りで得たデータの分析にクラウドやAIを活用する可能性もあるという。
西日本豪雨で大規模被害
旭酒造は18年6月末〜7月上旬に発生した西日本豪雨の被害を受け、社屋の1階が70センチほど浸水した。停電が発生し、排水処理施設も損傷。7月上旬〜7月末にかけて操業を停止せざるを得なかった。その結果、約60万本もの獺祭が出荷できなくなり、売上にも大きな影響が出た。
自社サーバは社屋の2階に置いていたため、水没することなく無事だったが、桜井社長は「もしサーバが水没していたら、顧客のデータは全て消えていただろう。無事だったのは運が良かったが、幸運が続くとは限らない」と振り返る。「火事や地震、長期の停電など、再び災害に巻き込まれる可能性はある。この先も自社サーバを使い続けると、データが消える不安が常につきまとう。クラウド移行によって不安を解消し、おいしい酒を造ることに集中していきたい」(桜井社長、以下同)
東京データセンターを利用、米国事業での利用も視野
今回、旭酒造が採用したOCIのサービスは、汎用サーバ環境を構築できる「Oracle Compute Cloud Service」、データベースの「Oracle Database Cloud Service」など。日本オラクルが5月にオープンした、東京データセンターのリソースを活用する。クラウド移行に合わせ、バックアップの方法も手動から自動に切り替えた。
獺祭は欧米でも高い人気を誇っており、旭酒造は20年にも米ニューヨークに酒蔵を立ち上げ、現地での事業を本格化する計画だ。米国事業でも顧客管理にクラウドを活用する予定で、「日本事業の顧客管理システムとリンクさせて利便性を高めたい」という。米国事業ではこの他、「現地の職人を雇用し、日本酒造りに日本人的な感覚とは違ったものを取り入れたい」としている。
桜井社長が考える「テクノロジーとの向き合い方」
ビジネスの分野では、クラウド上に多様なデータを集めてAIで分析し、マーケティングや戦略立案に生かす取り組みがトレンドになっている。旭酒造も古くからデータの取得・活用に注目し、製造中の酒の温度、アルコール度数、酸度、糖分量などを職人がグラフにまとめ、よりよい味を実現する条件を細かく検討してきた。クラウド導入を皮切りに、こうしたデータの分析にも、クラウドやAIを活用する計画はあるのだろうか。
桜井社長は、「正直に言うと、現時点では酒造りへのテクノロジー活用は難しい点が多い。5〜10年後に(技術が進歩して)環境が整っていればやりたいが、現時点では顧客システム以外に手を広げることはあまり考えていない」と明かす。
同社長はその理由を、「旭酒造では獺祭の仕込み作業を年間3000回行っているが、この回数は、ディープラーニングで使う教師データの数としては不十分だ」と説明する。「酒の味には、産地、気温、湿度、空調管理、スタッフの体温、精米工場の環境、コメの等級など、多様な外的要因が絡み合っている。そのため、酒の味が悪かった時などに、どの要因が影響しているかを特定するのは難しい。IT活用を試みたことは過去にもあったが、よい結果が出なかった」
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