せりふの“あのキャラ度”をAI診断、ゲームシナリオ作りに活用 「ライター多数の現場も楽に」(1/2 ページ)
AIでキャラのせりふを分析し、言動をぶれを抑えるツールをバンダイナムコエンターテインメントの研究機関が開発。すでにライターが複数いるスマホゲームなどで試験運用が始まっているという。開発のキーパーソンに仕組みを聞く。
「Fate/Grand Order」などのヒットを契機に増えた、ストーリーをメインに据えたスマートフォンゲーム。さまざまな企業が開発を進める一方、プロジェクトが巨大化すると複数のライターが必要になり、キャラクターの言動に細かいぶれが出るといった問題もある。バンダイナムコグループの研究開発機関、バンダイナムコ研究所(東京都江東区)は、この課題に自然言語処理AIを活用して立ち向かっている。
「現場からは『せりふを把握し続ける負担が減って楽になった』『この人に聞かないとキャラ特有の言い回しが分からない、ということがなくなった』などの声もある」──バンダイナムコ研究所の中野渡(なかのわたり)昌平さん(イノベーション戦略本部プロデュース部事業プロデューサー)は、自社開発したツール「AIセリフ監督」についてこう話す。
AIセリフ監督は、キャラの言動を分析し、そのキャラらしいかを数値化するなどの機能を備えるツールだ。タイトルは非公開だが、すでにグループ企業が手掛けるスマホゲームでの試験運用も始まっているという。AIの力を借りたせりふ作りの裏側を、同社の頼展韜(ライテントウ)さん(技術開発本部先端技術部AI課係長)と中野渡さんに聞いた。
せりふの“キャラらしさ”を数値化 代替案も自動で提案
AIセリフ監督は、バンダイナムコ研究所が独自に開発した自然言語処理モデルを活用したWebアプリだ。シナリオライターが書いたせりふを入力すると、AIで内容を自動分析。どれくらい元のキャラクターの言動に近いかを数値化する。
逆に、せりふに含まれるそのキャラクターらしくない言い回しや、禁止用語を強調表示し、どう言い換えるべきか提案する機能も備える。
例えばバンダイナムコ研究所が技術紹介のために制作した、一人称が「私」で、他人には敬称を使うキャラ「ミライ小町」のせりふとして「俺はミライ小町だ!ナシダの作ったAIセリフ監督はクソすごいぞ!」という文を入力したとする。
この場合、ミライ小町らしさは100%中1%。改善案として、せりふのうち「俺」は「私」に、「ナシダ」は「ナシダ博士」に、「クソ」は使わないよう提案する。
せりふ中のどの言葉が“そのキャラらしさに影響を与えているか”を数値化する機能も搭載。先ほどのミライ小町のせりふの場合は「俺」「だ」などをキャラクターらしさに強く影響を与える言葉として表示する。先に提案された改善案と組み合わせることで、良い影響を与えているかが分かるため、今後のせりふ作りの参考にできるという。
短いワードは過去のせりふを参照して対応
AIを活用し、誰でもそのキャラクターらしいせりふを作れるAIセリフ監督。しかし「そのキャラクターらしい言い回し」の判断は当然人によって異なる。例えば「はい」などの感嘆詞や「スポーツ」などの単語は、誰でも使うためそのキャラらしいかが分かりにくく、AIの判断を信用出来ない場合もある。こういった言葉にはどう対応するのか。
「AIセリフ監督は『類似セリフ検索』という機能を搭載している。これは、ある言葉を入力すると、キャラクターの過去の言動から近いせりふを検索できる機能。(AIが判断する)キャラクターらしさがあてにならないのであれば、実績のある過去のせりふを使えばいい、という考えの下で追加した」(ライさん)
例えば、ミライ小町のせりふとして「スポーツは見るのもやるのも好き」と入力し「スポーツ」がミライ小町らしいせりふかどうか判断できなかった場合は「マイナーなスポーツにも面白いものが多いですよね」「もちろん、テニスはやるのも見るのも好きですよ」などの文を表示。スポーツをどう表現すべきか、ヒントとなる情報を提供する。各せりふの出典元も表示するという。
「長い間シリーズが続くと、新しいタイトルが出るごとに開発する担当者も変わる。担当者が変わると、キャラの言い回しを引き継ぎにくくなる。そういった人も『このせりふは過去のこのシリーズで出てきたな』と思えると、AIが提案した言葉でもキャラクターらしいせりふとして採用できる」(中野渡さん)
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