コロナ後に求められる鉄道の姿とは? 「レイアウトを変えられる列車」など英国の取り組みから考える:ウィズコロナ時代のテクノロジー(3/3 ページ)
コロナ禍によって、移動手段に求められるものも大きく変わった。英国で開催された、未来の鉄道のアイデアを募集するコンテストの結果から、パンデミック後の移動手段を考える。
VRを利用した旅行計画
もう一つ、変わった角度から、ウィズコロナ時代の移動をより良いものにするアイデアを紹介しておこう。Mission Roomという企業が提案した、「乗客オリエンテーションガイド(Passenger Orientation Guide、以下POG)」のコンセプトだ。
同社は360度型スクリーンを使用した、没入型のVR(バーチャルリアリティー)コンテンツを開発している企業で、これまで建設業向けのサービスなどを提供している。これはカメラで撮影した、建設現場の映像を現実に近い形で再現することで、離れた場所から専門家による現場のチェックを可能にするというものだ。
Mission Roomはこの技術を活用して、旅行計画を立案する際に役立つアプリケーションを実現するという。
旅行に出掛けるとき、不安に感じることの一つは、見慣れぬ土地で計画通り行動できるかである。駅の構内で迷わないか、正しいホームで列車を待つことができるか、といった具合である。パンデミックの発生によって、さまざまな形で行動制限がある場合はなおさらだ。Mission RoomはVR技術を利用して、利用する予定の駅や列車の映像を事前に確認することで、こうした不安を取り除こうとしている。
POGでは「駅の入り口からホームまで」「列車の外観」「座席」の3種類のコンテンツを提供する計画である。それぞれのコンテンツに、360度のVR映像が用意し、利用者はPCやモバイルデバイス、公共スペースに設置される端末から閲覧できる。
既に技術検証プロジェクトの立ち上げが決定しており、英国のウェストヨークシャーにあるハダースフィールド駅と、そこに発着する列車が対象になっている。このプロジェクトが成功した場合、英国の鉄道ネットワーク全体への展開と、さらには海外展開も計画しているそうである。旅行中の移動で不安な箇所があったら、先にVR映像で予習しておく、という未来が実現するかもしれない。
日本で今後求められる移動手段とは
冒頭で述べたように、新型コロナウイルスの流行はある程度落ち着いてきており、第6波などに警戒が必要なものの、人々の不安感は薄れてきている。新たな取り組みをしなくても、ある程度までは以前のような日常が戻って来るかもしれない。
しかし前述のNRIの調査結果によれば、新型コロナウイルスの流行が終息して感染の不安を感じなくなった場合も、今後利用したい移動手段として「(自らが)所有する乗り物」を挙げた回答者は82パーセントに達した。
一方で、「鉄道(新幹線以外)」を挙げたのは57パーセントにとどまっている。これだけ長期にわたってCOVID-19の恐怖にさらされてきた以上、見ず知らずの他人と一緒にいる状況を減らしたいと考えるのは当然だ。
こうした結果を考えると、日本においても、FOAKで投資対象に選ばれた「不安を取り除く」や「実際の感染リスクを減少させる」ようなテクノロジーの導入が求められるだろう。その意味で、この公募によって示されたさまざまなアイデアは、私たちにとっても大きなヒントになるはずだ。
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