キリン、ビールの製造計画をAIで立案 年3000時間以上を削減 まずは「ろ過計画」から
キリンビールが、AIを活用してビール類の製造を効率化するシステムを開発し、仙台工場など全9工場で運用している。タンクに貯蔵した麦汁をいつろ過し、どのタンクに移し替えるかという計画を自動立案するもので、年3000時間以上の業務削減が見込めるという。
キリンホールディングスは10月11日、キリンビールが、AIを活用してビール類の製造を効率化するシステムを開発し、2020年12月から仙台工場など全9工場で運用していると発表した。麦汁の発酵後、タンクに貯蔵した液体をいつろ過し、どのタンクに移し替えるかという「ろ過計画」を自動立案するもので、全工場の合計で年3000時間以上の業務削減が見込めるという。
同社によるビールの醸造は大きく分けて麦汁を作る「仕込」、麦汁を発酵させる「発酵」、ビールを熟成させる「貯蔵」、不純物を除去する「ろ過」、別のタンクにビールで一定期間保存する「保管」、缶や瓶に詰める「パッケージング」の6工程で構成される。
ろ過計画はこのうち貯蔵から保管までの流れをまとめたもので、どのタンクに液体を貯蔵・保管するかどうかを、熟成にかかる時間やタンクの洗浄状況などを基に判断する。同社によれば、この業務は熟成にかかる時間など以外にも考慮すべき条件が多く、これまでは熟練者でも1つの計画を立案するのに最大で6時間半かかっていたという。
一方で、キリンビールが今回開発したシステムでは、工場の設備情報などを基にAIでろ過計画を自動で立案。作業時間を1つの計画につき最短55分まで短縮できるという。
まずは19年に福岡工場に導入し、その後は20年1月に横浜工場など2カ所で運用を開始。効果が確認できたことから、他の工場でも20年5月以降に段階的に導入したという。展開に当たっては、各工場のスタッフからヒアリングして集めた立案に必要な条件のデータを基に、制約プログラミング(ある問題に対し、特定の制約を満たす答えを効率よく探し出す技法)を活用することで、設備や製造体制の異なる工場でも使えるようにした。
システムの開発にはNTTデータが協力。各工場への展開に使った費用などを含め、開発には総額で約1億6000万円かけたという。キリンビールは今後、このAIを活用した別のシステムを開発し、仕込なども効率化できるようにする方針。
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