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AIに記者の仕事は奪えるか? ニュース記事を代筆してもらった

近年、自然な日本語を生成できるAIが続々登場している。今回記者は、AIにニュース記事を代筆してもらう実験を行った。いい結果を導き出すには“対AI用コミュニケーションスキル”が重要になる。

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 AIが自然な日本語を書けるようになってきた。記者としてはAIに仕事を奪われる可能性も出てきて戦々恐々としているが、反面AIに簡単な仕事は任せてしまって、自分は好きな記事だけ書けばいい仕組みを作れば楽しく働けるのではないかという考えも出てきた。今回は、AIにどうにかしてITmedia NEWSに載せられるような記事を書いてもらえないか実験をしてみた。

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AIのべりすと

 以下の文章を読んで、AIが書いたのか、記者が書いたのか考えてみてほしい。当社のプレスリリースを短いニュース記事にまとめてみた。マーケティング分野の専門用語が混ざって読みにくいが、文章の自然さにまずは注目してほしい。

アイティメディアがリードジェン事業を強化すべく、○○社と連携を開始した。これによって、営業担当者は、獲得したセールスリード情報をCRMやMAツールに登録できるようになる。また、アイティメディアでは、今後、さらなる高付加価値なサービスの提供をめざして、他のパートナーとも協力体制を強化していく予定だ

アイティメディアは10月1日、リードジェネレーション事業の強化に向け、○○社との協業を始めた。アイティメディアの事業基盤システムと○○社が開発した「○○」を連携させ、メディアから取得した見込み客情報をMAツールに自動登録できるよう機能を強化。顧客の作業負担軽減を目指す

※編集部で、社名やサービス名など一部を編集しています

 いかがだろうか。ITmedia NEWSをよく読んでくださっている方は、文体からどちらが人間による文章か分かってしまうかもしれないが、いずれも文としてはおおむね成立している。正解は、前者がAI、後者が記者のものだ。

 この文章の生成には、小説を自動生成する「AIのべりすと」というWebサービスを使った。AIのべりすとは約500GBの文章データを学習しており、冒頭数行を書き込めば自動的に文の続きを生成できる。今回は、プレスリリースをコピーアンドペーストして、最後に「ここまでの文章をニュース記事風にまとめると、」と加えて入力することで続きの文章を促した。

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NEWS編集部による添削 配属当時の記者と比べればましとのこと

AIはあとどれくらいで記者になるか

 AIのべりすとは小説を自動生成するAIであり、ニュース記事を書かせること自体がむちゃぶりだ。そんな中でも自然な文章を生成してくれた。欲を言えば、専門用語や企業が独自で使っているオリジナルの単語を分かりやすく書き直してくれればなおいい記事になるだろう。

 冒頭で提示したAI作のニュースがITmedia NEWSに掲載できるかというと、まだ難しい。しかし、人間が事前にチェックすれば違和感のないレベルに書き上げているので、あと数年もすれば、シンプルな速報記事の執筆を取って代わられる可能性は十分ある。

 ただ、実は冒頭で提示したニュースは、何回か文章を生成し直して、中でも一番できのいいものを採用している。常に上質な記事を書いてくれるわけではなく、当たり外れがあるのだ。

 では、失敗した文章は日本語として成立していないのかというとそれは違う。ニュース記事として適切でないだけで、日本語としては十分読めるクオリティーになっていた。問題なのはニュースポイントの見極めだった。

 人間がニュース記事を書くときには「この話題はどこに注目すべきなのか」を最初に判断する。「有名企業が子会社を設立した」「新技術の登場で性能が向上した」「情報漏えいで個人情報が流出した」など、多くのニュースには一言で言い表せるニュースポイントがある。それが記事のタイトルにもなる。

 失敗した文章は、日本語として正しいものの、プレスリリース内の優先度が低い情報を中心に記事を構成していた。例えば「東証1部企業がDXを手掛ける新会社を設立した」というニュースがあった場合に「DXとはデジタル化によってビジネス上の価値を生み出す……」というように、メインの話題とはずれた話をしてしまう。読解力不足ともいえるだろう。

AIが悪いのか?

 では、芯を捉えていない文章を作ってしまうのはAIのせいなのか。もちろんその可能性もあるが、AIがその実力を発揮できるかどうかは、人間の采配や指示にかなり左右される。

 例えば今回の、プレスリリースを読んで内容を要約し、記事化するというタスクは、要約やニュース記事の執筆に特化したAIに頼む方が当然ハイクオリティーになる。指示の出し方も重要だ。AIの性質にもよるが、プレスリリースの全文を一気に要約させるより、段落や章に分けて要約させた方がきれいな文章を生成できる場合もある。

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東京大学・松尾豊研究室発のAIベンチャーELYZA(イライザ/東京都文京区)が開発した長文要約AI「ELYZA DIGEST」を使い、AIにとって分かりやすいように指示した結果。2文目以降は怪しいが、最初の1文は記者が書いたものとほぼ一致した

 AIにとって分かりやすい指示を人間が考えて投げかける、いわば“対AI用のコミュニケーションスキル”が重要だ。長い文章を要約するのが得意なのか、短く区切った方が上手にまとめられるのかといった、AIの傾向を理解し、それに配慮できる人間がAIを上手に扱えるのだろう。

 これはAI以外にもいえる。例えば、日本語を(AIによらない)機械翻訳で英語化する際に、正しく翻訳されるよう、主語を明確に書いたり、比喩や慣用句を使わず記述したりといった配慮をしている人もいる。ちょっと回りくどいが、これも機械に正しく目的を伝えるテクニックだ。今後、AIを扱う際にはぜひとも、AIに優しいコミュニケーションを心掛けてみてほしい。

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