日本でのMaaS普及、“ラストワンマイル”はデータ連携? Uberや国交省などが議論(4/4 ページ)
国交省が旗振り役となって進めている“日本版MaaS”。交通事業者やデジタルプラットフォーマー、自治体が参加して進めるが、“日本版”たる日本特有の事情から、各プレイヤーが共通して抱える課題が明らかになってきた。
海外では鉄道やバスは政府や自治体が主体として運用することが多く、その経営の多くは補助金によって成り立っている。これは、MaaSを導入しやすい要因といえる。
例えば、Whimが生まれたヘルシンキでは、バス、鉄道路線、地下鉄、路面電車、フェリー、自転車シェアリングの運営はヘルシンキ地域交通局(HSL)の管轄にある。MaaSのように地域の公共交通を束ねたサービスを導入しやすい土壌があるのだ。
一方で、日本は鉄道やバス、タクシーなどの運営主体がそれぞれ複数あり、民間事業者として競争しながら利便性を高めてきた経緯がある。
こうした日本特有の市場環境の下でMaaSの利便性を高めるために何をするべきか。議論への参加者が揃って求めたのは「データ連携」の仕組み作りだ。
MaaSでは、各交通機関の運行情報や、ユーザーが要望する情報、決済の情報など多くのデータを扱って、適切な移動サービスを提案する。その中では多くのデータがやりとりされることになる。
Uber Japanの山中志郎さん(モビリティ事業 ゼネラルマネージャー)は「MaaSの導入を進める中で、一事業者による独占や、データの囲い込みを考える事業者も出てくるだろう」と指摘。プラットフォーム事業者による囲い込みや、公共交通事業者によるデータの出し渋りを防ぐ仕組みが必要とした。
シンポジウムに参加した交通事業者からも、国土交通省による旗振りを期待する声が相次いだ。WILLERの村瀬社長は「MaaSで世の中を作ろうという中、民間企業同士が2〜3社集まったデータで利用者全体の行動変容を起こすことは難しい。国土交通省のような存在が、制度設計を主導する必要があるだろう」と期待を寄せた。
JALの清水さんも「大所高所で決めて行くためにも、公共分野の主導が必要だと思う」と要望する。
航空業界では、リアルタイム運航データのオープンデータ化の議論が進んでいる。清水さんは「運航データ活用によって、外国では飛行機が遅延した時に補償する航空遅延保険というサービスが生まれた例もある」と紹介。MaaSで共通フォーマットのデータ公開が進むと、それに適応した新たなサービスが生まれてくると示唆した。
利用者目線のMaaS実現を
公共交通政策を専門とする、東京大学の加藤浩徳教授は、MaaSの重要な観点を「利用者の立場に立って交通を捉える」ことだと解説。民間企業が主体となって公共交通分野を運営している日本では、サービスの改善や事業者間の連携といった面では経験値があり、諸外国と比較しても優位な状況にあるとした。
一方で、MaaS実現の課題はやはり事業者間でのデータ活用をスムーズに進めることにあり、政府も適切な適切な利害調整を担えるように、官民一体となったデジタル化が求められるという。「MaaSを通して最適な社会デザインを模索することになる。これは数学的にパッと結果が出るようなものではなく、皆で議論や実証を重ねて検討を続ける必要がある」(加藤教授)
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