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BALMUDA Phoneには何が欠けているのか 「デザイン」と「新規参入」のジレンマ(2/3 ページ)

テクノロジージャーナリストの西田宗千佳さんが、バルミューダ初のスマートフォンが抱える問題点を分析した。

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「体験で語るデザイン」が不足している

 ここまで筆者は、あえて「デザイン」という言葉を使わずにきた。デザインとは一般に「形」のことを指すことが多い。だが、筆者はもはや違うと考えている。特にスマートフォンのような製品ならなおさらだ。

 デザインとは「どういう体験ができるのか」ということ全体だ。形はとても重要なものだ。画面表示やアプリの動作も同様。ソフトとサービスが製品の完成度を決める上で重要な要素になってくると、この領域も当然デザイン、ということになる。

 BALMUDA Phoneは、形とソフトの工夫の面で独自のことをしている。だが、それだけではまだ「デザイン」としては不足だ。

 そのスマホを買うとどういういいことがあるのか、という点をわかりやすく示すことや、そのための仕掛けも、いまや「デザイン」の範疇に入る。

 例えば、新しいスマホへの移行が簡単になるソフトを作ることは付加価値の1つに過ぎないが、箱を開けると転送ケーブルがまず目につき、「ああ、これでつなげばいいのか」を分かるようにしてあり、さらに、ケーブルをつなげばそれだけで移行作業が始まったりすると、これは確実な「体験のデザイン」と言えるだろう。

 BALMUDA Phoneが主張するように、現在のスマホの大きさや形への不満を解決する、というのは1つの方法論かと思う。

 だが、それを「形としてのデザイン」に頼って表現してしまっても、「ああ、コンパクトなスマホだな」で終わってしまう。これを買うとどういう体験ができるのか、どう今までと違うのか、という「体験のデザイン」が求められる。

 そういう意味では、あの形状は特徴的ではあるが、本来のターゲットユーザーがどこか、見えづらい。背中が丸いスマホは過去にもいくつかあったが、今は少なくなった。なぜなら、机の上に置いた時にくるくる回りやすく、安定しないからだ。見かけなくなった形状には、一定の意味がある。

 アンケートを取れば、「スマホは大きくて持ちづらくなってきた」と答える人は確かに多いだろうし、「デザインも画一的だ」と答える人も多い。そうした顧客を狙うのはもっともなやり方だ。

 しかしそれは、ファストフードの顧客にアンケートをとれば、必ず「ヘルシーなメニューを」「サラダセットの充実を」という要望が出てくるのと同じだ。重要であり絶対求める人がいるが、主ではないし、求める場が違うこともある。意外と、別の新しい真逆の要素がヒットの要因になることもある。

 ふんわりした言葉ではなく、「何に困っている人に」「どんな体験を提供するのか」という点をテコにし、ソフト、サービス、形状をセットで考えて、初めてある種の価値が提示できる。

 ただ、それを毎回やるのが大変だから、各社は大量のマーケティング調査をし、ラインアップをシリーズ化し、ユーザーシナリオを作ってカタログを埋めていくのだ。

 あまり面白味のないやり方に聞こえるが、逆説的に言えば、そうした手法を抜け出るには圧倒的なパワーが必要だし、失敗も覚悟しないといけない、ということでもある。

独自性の前に横たわる「量とコスト」の論理

 実際のところ、スマホとしてベーシックな価値で差別化するのは意外と難しいものだ。なぜなら、汎用機であるスマホにとって、ベーシックな部分は当然「誰もが求める=どのメーカーも求める」ものだからだ。

 Androidであるわけだし、プロセッサもQualcomm。そうしたプラットフォームの上に乗るからには、できることの選択肢は限られてくる。ソフト的に見ても、本当にコアな部分は手を入れづらく、無理にやろうとすればするほど長期的なメンテナンス性で苦しむことになる。

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プロセッサはミッドレンジ向けのSnapdragon 765

 ディスプレイなどで独自パーツを使っているために高価になった、という部分があるようだが、価格差の理由とするには目立ちづらい部分だ。個人的には、サイズが下がった上にインカメラがパンチホール処理なのはあまり好きではない。9:16の画面比も、より縦に長いスマホが増えた結果新鮮味をもって見えるが、冷静に考えれば以前はよくあったものでもある。実際には「作れる中での最適解」だった、ということなのだろう。

 こういう部分で、一定の思想をもって特別なパーツを選んで使うと、それは1つのストーリーになりやすく、消費者の目にも説得力なって見えてくる。ただそれには、「数とコスト」も重要だし、変化が見えやすいことも重要だ。特別なものを作るにはそれだけお金がかかり、スマホはそれを量産効果でカバーする場合がほとんどだ。

 今回のBALMUDA Phoneが高く見えてしまう背景には、自然な形を目指したがゆえにそうした部分での独自性が薄く感じられ、「SoCの性能などから判断するとかなり割高に見えてしまう」ことがあるように思えてならない。

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