“最強生物”クマムシ、量子ビットと量子もつれになる 絶対零度・高真空に420時間さらされても生還
宇宙空間などの極限環境でも生存できるといわれる微生物「クマムシ」と超電導量子ビットの間に、量子特有の現象である「量子もつれ」を観察した──こんな研究結果を、シンガポールなどの研究チームが公開した。量子もつれ状態を作るためにほぼ絶対零度まで冷やされたクマムシは、その後生命活動を再開したという。
宇宙空間などの極限環境でも生存できるといわれる微生物「クマムシ」と超電導量子ビットの間に、量子特有の現象である「量子もつれ」を観察した──こんな研究結果を、シンガポールなどの研究チームが論文投稿サイト「arXiv」で12月16日に公開した。量子もつれ状態を作るためにほぼ絶対零度まで冷やされたクマムシは、その後生命活動を再開したという。
量子もつれは複数の量子による特有の相関で、量子コンピュータの計算アルゴリズムにも重要な役割を果たす。量子的な現象は小さく冷たい物体でなければ観察が難しいことから、生物のような大きく複雑で熱い物体に、量子の性質は現れにくい。研究チームは、量子力学の立役者の一人であるニールス・ボーアが遺した「生物で量子実験を行うのは不可能」という主張に注目し、普通の生物では耐えられない環境でも生き続けるクマムシに白羽の矢を立てた。
研究チームはまず、クマムシを「クリプトビオシス」と呼ばれる無代謝状態にした。2つの超電導量子ビットを用意し、その片方にはコンデンサーの間にクマムシを設置。10mK未満(0.01ケルビン、ほぼ絶対零度)まで冷やし、6×10^-6mbar(1気圧の約10億分の6)という高真空条件にしたところ、2つの量子ビットの間に量子もつれが観察され、クマムシ自体とも量子もつれ状態になったことを示せたという。
クマムシはほぼ絶対零度かつ高真空条件に420時間さらされたが、その後生命活動を再開した。これまでも、50mK・10〜19mbarという極低温・真空環境である地球の衛星軌道から生還した事例はあったが、今回の実験ではこの記録より過酷な環境であってもクマムシが生き残れることが分かったとしている。
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