東大、光量子計算の万能プロセッサを開発 「究極の大規模光量子コンピュータ」実現へ
東京大学は、光を使った量子コンピュータの研究で、単一でさまざまな種類の計算や、複数ステップに渡る計算を実行できる万能な計算回路「光量子プロセッサ」の開発に成功したと発表。
東京大学は11月13日、光を使った量子コンピュータの研究で、単一でさまざまな種類の計算や、複数ステップに渡る計算を実行できる万能な計算回路「光量子プロセッサ」の開発に成功したと発表した。
量子コンピュータは、特定の計算を現在のスーパーコンピュータより高速に実行できるものとして、各国でさまざまな方式のコンピュータの開発が進んでいる。今回、研究チームが取り組む光を使った方式は、他の方式とは違い常温・大気中で動作が可能なことや、光を使った量子通信との相性の良さ、高クロックによる高速な計算処理ができるなどの強みがある。
しかし、従来の光量子コンピュータの方式では、複数の計算を行うには回路が大量に必要になり、回路が大規模になる欠点があった。これに対し研究チームでは、万能な計算回路を1つ置き、そこを何度もループすることで、最小規模の回路で効率良く計算可能な「究極の大規模光量子コンピュータ」方式を2017年に考案。今回の研究では、回路を変更することなく万能な計算回路が可能になる光量子プロセッサの開発に成功した。
一般に光量子コンピュータの計算回路は、量子が持つ情報を、別の量子に移動する「量子テレポーテーション」と呼ばれる情報通信手段に基づき、計算を行う。具体的には、(1)2つの光パルスの間の量子もつれの合成、(2)片方の光パルスの測定、(3)もう片方の光パルスへの操作、の一連の手順を踏むことで四則計算などの単純な計算を1回実行できる。
研究チームでは、2019年5月時点で(1)までを実行できるプロセッサを開発しており、今回、回路の多数の構成要素をナノ秒当たりの精度で時間同期しながら切り替えできる仕組みを導入し、プロセッサを完成させた。これにより、(1)から(3)までの手順全てを実行し計算できるようになったという。
(1)から(3)までの手順を繰り返すことで、最大3ステップまでの計算ができることを実証。原理的にはプロセッサを繰り返し使うことで、さまざまな計算を無制限に続けることが可能という。実行する計算の種類や繰り返し回数なども変更可能で、量子コンピュータに必要な5種類の計算のうち4種類を同じ回路構成で、もう1種類も特殊な補助光パルスを使えば実行できると理論的に示しているとしている。
これらの結果から、従来の光量子コンピュータの計算回路にはなかった、複数ステップでも計算を繰り返せる拡張性と、計算の種類変更に必要な汎用性を兼ね備える万能な動作を光量子プロセッサ1つで実行できるという。これは、究極の大規模光量子コンピュータの実現に貢献する他、量子通信や量子センシング、量子イメージングなど光量子技術への応用も期待できるとしている。
この研究成果は、米国の科学雑誌「Science Advances」に11月12日付で掲載された。
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