音楽に感動したときの鳥肌を他人と共有するデバイス、慶應大の研究チームが開発:Innovative Tech
慶應義塾大学の研究チームは、音楽の演奏を聞いている人の鳥肌を検出し、他の人に共有するシステムを開発した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
慶應義塾大学の研究チームが開発した「Frisson Waves: Sharing Frisson to Create Collective Empathetic Experiences for Music Performances」は、音楽の演奏を聞いている人のFrissonを検出し、他の人に共有するシステムだ。ここでのFrissonは、音楽を聞いた人が心に深く響いたときに、突然の興奮を覚え皮膚が変化する状態を意味する。
Frissonは個人的な体験なため、他人と共有するのは難しい。そこで研究チームは、Frissonを検出するためのセンシングリストバンドと、Frissonを誘発するための触覚ネックバンドの2つのデバイスで、Frissonを他人と共有できるかを試みた。
センシングリストバンドは、搭載する反射型光電式容積脈波計で心拍数を、皮膚電気活動センサーで皮膚の導電率の変化を捉え皮膚電気活動を計測する。このように取得した心拍変動と電気皮膚活動の特徴を抽出し、機械学習(SVM)でFrissonかどうかを分類する。このモデルは、32人の参加者、それぞれから約20分のデータを使った一連の事前調査で学習した。
Frissonを誘発する触覚ネックバンドは、温度刺激を提示できる2つのペルチェ素子を搭載する。実際に誘発されたかどうかを実験するために、被験者15人にネックバンドを装着してもらい、首の後ろに24度に設定したモジュールを1分間当てる方法を試みた。
Frissonが誘発された際に押してもらうボタン付きリストバンド(上記の鳥肌を検知するリストバンドとは異なる)を付けてもらい計測。テスト中にFrissonを経験したかどうか、それがどの程度強かったかを7段階のリッカート尺度(1=まったくない、4=はっきりしたFrisson感、7=非常に強いFrisson感)で答えてもらった。
その結果、15人中11人が合計52回、リストバンドのボタンを押した。インタビューでは、14人がテスト中にFrissonのような感覚を経験したと回答。11人が、よりはっきりとしたFrissonを意識的に体験したと回答した。これら結果は、Frissonの検出から、波及、周囲の人と共通できる可能性を示唆している。
Image Credits: Keio Media Design, Embodied Media & Geist, Frisson WavesSource: Yan He, George Chernyshov, Dingding Zheng, Jiawen Han, Ragnar Thomsen, Danny Hynds, Yuehui Yang, Yun Suen Pai, Kai Kunze, and Kouta Minamizawa. 2021. Frisson Waves: Sharing Frisson to Create Collective Empathetic Experiences for Music Performances. In SIGGRAPH Asia 2021 Emerging Technologies(SA '21 Emerging Technologies).Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, Article 5, 1-2. DOI:https://doi.org/10.1145/3476122.3484847
関連記事
- VTuberの動きをオーバーリアクションに自動変換 中の人の表情などをアニメーションに反映
米パデュー大学の研究チームは、バーチャルYouTuber(VTuber)の配信において、ストリーマーの実際の動きよりも表現豊かな動きとして拡張し出力するシステムを開発。ストリーマーのトラッキングから得た音声や表情などに基づいてアニメーション生成する。 - 月経痛と血の漏れを体験できるVR、奈良女などが開発 電気と温度で症状を再現
奈良女子大学と甲南大学の研究チームは、月経症状を体験できるVRシステムを開発した。電気刺激による月経痛と、温度刺激による血の漏れ感覚を再現する方法で月経症状を再現する。 - トリミングではなく、写真を拡張して良い構図を提案 AIが適切な背景を自動合成
中国の南開大学とTencent AI Lab、韓国のXverseの研究チームは、写真内を切り抜くのではなく、広げる方法で被写体に合わせた構図にして出力する、深層学習を使った外向きクロッピング手法を開発した。 - ポリ袋と同じ薄さの太陽電池、米スタンフォード大が開発 人間の皮膚にも装着可能
米スタンフォード大学の研究チームは、軽量で薄く曲げられる太陽電池を開発した。これまでのパネル式と比べ、 厚さが6マイクロメートル未満(ポリ袋程度の厚さ)の薄さを持ち、高いエネルギー変換効率を達成した。 - 作業中に「ツンデレ」されるとやる気は高まるか? メイドアバターで、奈良先端大が検証
奈良先端科学技術大学院大学の研究チームは、冷たい対応と優しい対応を組み合わせた動作「ツンデレ」が作業意欲にどのような影響を与えるかを検証した。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.