ノイズ、不安定さが美点のアナログサンプラー「メロトロン」を“モノマネ”アプリ開発者が手に入れた:古代サンプラーがアプリになるまで(2/3 ページ)
アナログのサンプラー、古代のサンプラーなどと表現される「メロトロン」という不思議な魅力を放つ鍵盤楽器メロトロンがiPhoneアプリになるまでの過程をお届けします。
日本人はメロトロンが好き
2008年1月の米国ロサンゼルス郊外のアナハイムで開催されるNAMMショーで見た実機の強烈な記憶。それを原動力に若いプログラマーと組んで開発したiPhone向けのメロトロンシミュレーターアプリが「マネトロン」(Manetron)だった。
当時のiPhoneは非力でプログラマーには苦労を掛けたが、そのかいあってか、それなりに話題になって2万4000ダウンロードという当時としてはそこそこの数字を残した。そして、マネトロンは、第2世代の「スーパーマネトロン」(Super Manetron)へと進化した。
初代では実現できなかったテープ走行のアニメーションやMIDI機能を実装し、ファンの受けは抜群だ。国別にダウンロード数を比較すると日本が最も多い。メディアへの露出などプロモーションのたまものだとは思うが、それをさっ引いても、総じて「日本人はメロトロンが好き」だと肌感覚で感じる。
スーパーマネトロンは「うる星やつら」や「みゆき」といったアニメ音楽を作・編曲した安西史孝氏の実機、M400S(シリアル番号761)からサンプリングした音源を収録して開発した。フルート、3ヴァイオリン、チェロの基本3音色に加え、8声混声コーラス、ブラス、バイブを収録している。
バイブは、あまり聴くことのない珍しい音色だが、安西氏によると「イエスの『海洋地形学の物語』のC面(LP2枚目のA面)“古代文明”のイントロのバイブの音が欲しくてテープを注文した」そうだ。
安西史孝氏のスタジオ風景。オリジナルのMoog Synthesizer Model IIIの下にM400Sがセットされている。この他にも膨大な数のヴィンテージ鍵盤楽器があり、そのコレクションに圧倒される
このイントロは、リック・ウェイクマンが速弾きしていて、メロトロンでこのような速弾きが可能なことに驚かされるが「このフレーズのために、徹底してアクション機構の調整を行っているのではないか」(安西氏)という。
バイブの音は、イタリアのバンド、プレミアータ・フォルネリア・マルコーニ(PFM)の代表作『幻の映像』A面1曲目「人生は川のようなもの」でも聴くことができる。2分50秒あたりの眠たい感じの金属系のワウフラッターまみれの音がそうだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.