SaaS企業が恐れる「解約率」との正しい向き合い方 継続率99%を超えるSmartHRに聞く(1/2 ページ)
月次の解約率を継続して1%未満に抑えるSmartHR。サービス開始時点では2〜3%程度だったにもかかわらず、数値を抑えられた理由とは。CEOに戦略を聞く。
SaaSビジネスで扱う指標の中でも、とりわけ重要といわれる「解約率」(チャーンレート)。売り上げに直結するだけでなく、顧客満足度や価格設定の影響を大きく受ける数字だ。サービスを成長させるには、月3%未満を維持するべきといわれるこの指標を、継続して1%未満に抑えている企業がある。人事労務ツールを提供するSmartHRだ。
「解約にはきちんと理由がある。仮にチャーンレートが想定値から大きくずれる場合は、製品の構想段階から過ちがある可能性を考えた方がいい。オペレーションに問題があったり、そもそも製品がマーケットにフィットしていなかったりする可能性がある」
SmartHRの芹澤雅人CEOは、自社での解約率との向き合い方についてこう話す。同社は15年のサービス開始当初こそ解約率が2〜3%程度だったものの、いくつかの施策に取り組んだ結果、21年6月までに月0.4%程度に抑えることに成功。以降も1%以下を保ち続けているという。
SmartHRが解約率を抑えられる背景にはどんな戦略が隠れているのか。芹澤CEOに聞いた。
SmartHRが重視する「グロスレベニューチャーンレート」とは
SmartHRは、雇用契約や年末調整といった労務手続きをオンラインで管理できるようにする人事向けSaaSだ。「カオナビ」「freee人事労務」といった他社製SaaSとの連携機能を備え、21年12月時点でLINEやサイバーエージェントなど4万社以上が導入している。
同社が解約率として追いかけているのは「グロスレベニューチャーンレート」という数値だ。この指標は、収益ベースで算出する解約率で「当月の解約で失ったMRR(Monthly Recurring Revenue:月間経常収益)/先月末時点でのMRR」といった計算方法で算出する。
解約率として扱われる指標には、他にもプランのアップグレードやオプションの導入によって増えた収益まで考慮した「ネットレベニューチャーンレート」、顧客数ベースの「カスタマーチャーンレート」などがある。SaaS企業の中には、これらを指標に定めるところも少なくない。
しかし、SmartHRは提供しているプランやオプションが多く、企業ごとの利用料金の差が大きいという特徴がある。これを踏まえると、グロスレベニューチャーンレート以外の指標はいずれも解約の状況を把握するのに適さないという。
例えばネットレベニューチャーンレートは「(当月の解約で失ったMRR−当月増加したMRR)/先月末時点でのMRR」といった計算方法で算出することから、解約状況が把握しにくくなる。カスタマーチャーンレートは顧客ごとの利用料金の差が考慮できず、製品の評価が見えにくいとして採用していないという。
目を向けるべきは解約理由
収益ベースで解約率を追いかけるSmartHR。同社では、グロスレベニューチャーンレートを抑えるべく、大きく分けて2つの工夫をしているという。一つは、実際にサービスを解約したユーザーから集めた解約理由のうち、ある特徴を持った意見に注目して対応することだ。
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