カメラを使わない顔認識システム、顔を振るだけで暗闇でも検知 中国とオーストラリアの研究チームが開発:Innovative Tech
中国の深せん大学とオーストラリアのUniversity of New South Walesによる研究チームは、カメラを使わない顔認識システムを開発した。センサーの前で数秒間顔を振るだけで認識する。カメラを使わないため暗闇でも検知可能。
Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
中国の深せん大学とオーストラリアのUniversity of New South Walesによる研究チームが開発した「RFaceID: Towards RFID-based Facial Recognition」は、RFID技術を使った顔認識システムだ。ユーザーがRFIDタグマトリクスの前で数秒間顔を振るだけで顔を認識する。カメラを使わないため暗闇でも検知する。
一般的に顔認識を行うには、カメラを使った視覚的な入力が必要だ。しかし、PCやスマートフォンなどの一般的なカメラには、暗視用の赤外線ライトを搭載していないため、照明条件が悪い場合には精度が低下する。
カメラによるプライバシー漏えいのリスクもある。最近では、攻撃者がユーザーの顔情報を入手し、なりすまし攻撃のための関連情報(2D、3Dを含む)の抽出が容易であることも判明している。
今回は、これら問題点を全て解決する、RFID信号を使った顔認識システムを提案する。RFIDとは、リーダーでICタグの情報を離れた場所から非接触で読み取る認識技術を指す。ICOCAやSuicaなどのIC乗車券や、商品にタグを取り付けた在庫管理などで一般的に使用している。
RFID技術を使って、人によって違うマルチパス反射(人間の顔はそれぞれ独特の3次元形状をしているため)を捉えて分類を行う。
ハードウェアは、 RFIDリーダーとRFIDタグマトリクス、アンテナで構成する。各ユーザーにタグマトリクスの前で数秒間顔を振ってもらい顔データを収集する。RFIDリーダーは、収集した顔データをサーバに送信、サーバはユーザーの身元を確認する認証を行う。
システムでは、CNN(Convolutional Neural Network)の空間的パターン認識能力とBi-LSTM(Bi-Long Short Term Memory)の時間的パターン認識能力を組み合わせた、ニューラルネットワークモデルを設計し、人間の顔の空間的および時間的な特徴を捉えている。
さらに、環境ノイズや顔を振る速度の変化、顔を振る方向の変化、距離の変化などの悪影響を効果的に補正し、小規模な学習データに起因するオーバーフィッティングの問題を解決するための、新しいデータ補強技術も提案し、全体的なロバスト性を高めている。
実験では100人の被験者を対象とした評価を行い、RFaceIDが93.1%の分類精度を達成したことを示した。セキュリティ分析とユーザー調査により、システムの実用性を示した。
Source and Image Credits: Chengwen Luo, Zhongru Yang, Xingyu Feng, Jin Zhang, Hong Jia, Jianqiang Li, Jiawei Wu, and Wen Hu. 2022. RFaceID: Towards RFID-based Facial Recognition. Proc. ACM Interact. Mob. Wearable Ubiquitous Technol. 5, 4, Article 170 (Dec 2021), 21 pages. DOI:https://doi.org/10.1145/3494985
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