時と場所を選ばない空間オーディオ制作は可能か? M1 MacとLogic ProでDolby Atmos作品を作ってみた(5/5 ページ)
レーベルを運営する筆者が、M1 MacBook ProとLogic Proを使って自社の作品をDolby Atmos空間オーディオに対応させる過程をお見せする。
最後の最後にちょっとした落とし穴
Logic ProでDolby Atmosコンテンツを作成する際、最後の最後にちょっとした落とし穴がある。Logic Proには、ユーザーが最終的に耳にする形の圧縮音源として書き出すための機能が備わっていない。これは楽曲を提供する側のアーティストやプロデューサーが、圧縮形式のファイルでの最終形態を確認できないことを意味し、とても不安になる。
配信サービスやアグリゲーターへの納品は、ADM BWFで行なうことになるが、リスナーが耳にするのは映像なしのMP4ファイルによるストリーミングだ。Logic ProでMP4への書き出しまでサポートされていない現状は、ゴール直前で梯子を外された感がある。Appleには、今後のアップデートでMP4への書き出しもサポートしていただきたい。
ただ、方法はある。ドルビーラボラトリーズ謹製のツール「Dolby Atmos Renderer」を使えば、MP4への書き出しが可能だ。とはいえ、「Dolby Atmos Production Suite」をAvidの販売サイトから3万3000円で購入する必要がありハードルが上がる。また、別途iLok認証も必要となる。90日間のトライアル試用が用意されているので必要ならば適宜利用してほしい。Dolby Atmos RendererとLogic Proを利用した空間オーディオコンテンツの制作概要については、また別の機会に記事としてまとめる予定だ。
本稿の最後に、今回の制作サンプル音源を紹介したい。沖縄の竹富島在住の島唄アーティストである萬木忍の「てぃんさぐぬ花」を空間オーディオとしてミックスした。Dolby Atmosの効果を実感していただくために、オートメーション機能を使い楽器の定位を意図的に移動させたり、ボーカルを左奥に配置するなどちょっと極端なミックスをしてみた。
ミックスしたファイルをダウンロード可能にしたので、ステレオミックスと聴き比べてほしい。ステレオ版の方は、歌や楽器が両耳を結ぶ頭の中心線に沿って定位したり移動しているのに対し、空間オーディオ版は、3D空間を感じることができると思う。ダウンロードしたファイルは、iCloud Drive経由でiOS端末に送信することでリスニング可能だ。
著者プロフィール
山崎潤一郎
音楽制作業の傍らライターとしても活動。クラシックジャンルを中心に、多数のアルバム制作に携わる。Pure Sound Dogレコード主宰。ライターとしては、講談社、KADOKAWA、ソフトバンククリエイティブなどから多数の著書を上梓している。また、鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」「Alina String Ensemble」などの開発者。音楽趣味はプログレ。Twitter ID: @yamasakiTesla
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