飲食店向けSaaSなのにコロナ禍でユーザー数1.5倍 パーソルグループが「けがの功名」からつかんだ成長の秘訣(2/2 ページ)
コロナ禍で苦戦する飲食・小売業界をターゲットにしているにもかかわらず、ユーザー数を伸ばすシフト管理SaaS「Sync Up」。同サービスが成長する裏側には、コロナ禍に伴う飲食・小売業界のある変化と、同社の戦略が隠れていた。
NRRはMRR(Monthly Recurring Revenue:月間経常収益)などを基に割り出す、6カ月後、もしくは翌年の同時期にMRRがどこまで伸びるかを示す数値だ。(月初のMRR+プランのアップグレードで得るMRR)−(プランのダウングレードで失うMRR+解約で失うMRR)/月初のMRRといった計算式で算出する。
竹下さんによれば、パーソルイノベーションがNRRを重視する背景には、Sync Upと飲食・小売業界それぞれの特徴を考慮した戦略があるという。
「飲食・小売業界は複数の店舗をチェーン展開しているところが多い。これに対し、Sync Upは店舗単位で利用料を定めており、店舗で導入されるほど売り上げが立つビジネスモデルになっている。さらにSync Upでは、ITリテラシーが高くない人にも使ってもらえるようカスタマーサクセスも重視しているので、今後の見込み成長率を総合的に判断できるNRRを見ることで、カスタマーサクセスに注力しやすくしている」
ユーザー増は「けがの功名」? 「結果的に状況とマッチした」
コロナ禍に伴う環境の変化と、指標を巡る戦略がユーザー増につながったSync Up。しかし竹下さんによれば、この成長は当初見込んでいた形のものではなかったという。
実は、Sync Upの事業アイデアが持ち上がったのは17年ごろ。当時はコロナ禍ではなく、20年開催の東京オリンピックによって、都心の飲食・小売事業者が多忙になり、人手不足でシフト管理の重要性が上がることを見込んでいたという。
しかし、18年のサービス開始後にコロナ禍が本格化。東京五輪も見込んでいた形での開催ではなくなった。一方で、飲食・小売業界では結果的にシフト管理の重要性が増し、成長につなげることができたという。
「例えば1カ月に1回、月の半ばに来月のシフトを出す仕組みだと、実質1.5カ月先の予定を基にシフトを出すことになる。ただ、実際は1.5カ月先のスケジュールを読むのは難しく、アルバイト・パート側にとって『働きたかったけど働けない時間』が生まれることになる。当時はこういう状態を課題視したソリューションだったが、結果的にコロナ禍の状況にマッチした」
つかんだチャンスをどう活用する? 今後の戦略は
期せずしてチャンスをつかんだSync Upだが、今後はコロナ禍特有の課題だけでなく、感染拡大が収束し、飲食・小売業界が活発さを取り戻すことも見据えて新機能などを開発していく方針だ。
例えば他社の勤怠管理SaaSなどとのAPI連携を拡大したり、すでに辞めてしまったアルバイトに連絡を取れるような仕組みを開発したりすることを検討しているという。この戦略の背景には、竹下さんによる「サービス業は今後1〜2年、一時的な人手不足に陥る」という予測がある。
「飲食・小売は対面が必要なエッセンシャルワーカーなので、感染リスクや給与的なボトルネックから『この業界で働きたい』という人が減るだろうと考えている。一方、コロナの状況はいつか改善し、需要が戻るので、人手というギャップを埋めなければいけなくなる。この差を埋めるためのIT活用は今後さらに加速するはずなので、Sync Upをそのときに挙がる打ち手の一つにしたい」
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