なぜ「ネ申エクセル」は生まれたのか 誕生を目撃した元市役所職員が語る“美しさ”の追求(3/3 ページ)
役所や行政に提出する書類でこんな書類を見かけたことはあるだろうか。セル結合を多用し、方眼紙のマス目状となった1セルに対してそれぞれ1文字のみを入力するようなExcelファイルのことだ。一時期と比べるとだいぶ減ってきたものの、まだ見かけることも多い。なぜこうした独自のフォーマットが生まれたのか。元市役所職員がその背景を語った。
「神Excel」が残り続けた背景に人事の仕組み
以上を要約すると、自治体用の文書レイアウトというのは、昭和から平成初期におけるワープロ専用機のもとで作成されてきたが、その後ハードウェアがワープロ専用機からPCへと移行し、ツールがワープロソフトに置き換わるうえで、そのまま維持するのが難しくなった。そして、代替ツールとして使われたのが、表計算ソフトのExcelであり、Excel方眼紙という強引な手法を使って、印刷時のレイアウト再現を優先させたのが、現在「神Excel」と呼ばれるものの原型である、となる。
そして、時代は平成後期から令和へと移っていき、「ファイルをそのままデータとして共有する」という手段が生まれてくる。それまで用紙に出力され、郵送で共有されてきたファイルが、Excel方眼紙という丸裸のデータのまま衆目にさらされるようになり、かつて便利だった「神Excel」という手段が悪目立ちしてしまっている、というのが実情のようだ。
こうした変遷を招いた原因として、角氏は1つの課題を指摘する。行政の仕事は法律、条例といった法令根拠に従って動いており、公務員は法令の根拠に従わないことはしてはいけないと育てられる、という現状だ。
「先日、いいフレーズを見つけました。世間を賑わせた国土交通省の不正問題における第三者委員会のレポートの中に出てくる言葉で、『やり過ごすインセンティブ』という言葉です。行政にはこのやり過ごすインセンティブがあるんです。要は、やり方に課題や問題があっても、担当者がそのまま引き継いで、そのままやり過ごしてしまうんです。これを変えるには“強制”をするしかありません。例えば、ワープロは生産終了になったので、PCに乗り換えるしかありませんでした。でも、Excelはいまでも使えてしまうので残っているわけです」
こうした文化を助長する背景としては、人事異動の仕組みも影響したようだ。角氏は「当時の大阪市役所では3年から4年単位で人事異動が行われていました。例えば、ワープロ時代に役所で書院が主流になったのも、最初にデファクトスタンダードになった機種であったためだと思います。担当者が変わったときにソフト資産の引き継ぎがしやすかったわけです」と補足する。
「どうせ約3年で定期的に異動する」という事実が、自分が仕組みを変えてやろうという発想から人を遠ざけたのかもしれない。
一方、デジタル庁が発足した現在、少しずつ状況は変わってきている。角氏は、自治体との仕事で、現在も神Excelで作られただろう文書を見かけることはあると言いつつも、今後、行政において神Excelが広く使われ続けることはなくなっていくのではないか、と推測する。
「法律さえ変われば、とたんに行動が変わるでしょう。昨今は、デジタル庁が紙文化からの脱却について宣言していたはず。担当が総務省なのかデジタル庁なのかは分かりませんが、今後文書ルールの根本さえ変っていけば、紙Excelが使い続けられている現状は変わっていくのではないでしょうか」(角氏)
「書院からPCに乗り換えるときに生じた事態と似たようなことが、いま紙からデジタルに移るうえで起こっています。従来のフォーマットを維持したままやり過ごすのではなく、インタフェースとしてどういう風に使いやすくするか、の方に視点を向けるべきです。なんとかしなくてはいけないのは、『使い回し根性』の方ではないでしょうか」(角氏)
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