味をデジタル化する「電気味覚」の可能性(前編) 「味をSNSへ投稿する」を実現するための研究:Innovative Tech(4/4 ページ)
味をデジタル化を実現するために、世界中の研究室で研究が進んでおり、その基盤になるのが味のデジタル化において重要な要素である「電気味覚」という現象だ。一体どのような現象なのか。解説する。
研究のコンセプトを示した映像作品「味覚メディアの夜明け」が、 第24回文化庁メディア芸術祭のエンターテインメント部門で審査委員会推薦作品に選ばれ、メディア芸術の分野でも評価された。
宮下芳明教授は同年、この方法を用い、画面に映る食品の味を遠隔で生成し味わえるシステムを提案した論文「画面に映っている食品の味を再現して味わえる味ディスプレイの開発」を発表した。
内容は、遠隔にある食品を既製品の味センサーで記録し、ソフトウェアで味を編集後、ユーザーに味ディスプレイを介して味覚を提供するというもの。食品の映像や音声も同時に収録されているため、遠隔にいながらにして、食品の映像を見て音声を聞き、その味を感じられる体験が同時に得られる。
ユーザーに味を提供する味ディスプレイは3つ用意した。1つ目は、先ほどの海苔巻きのようなハンディ型の円柱ディスプレイ。2つ目は、タブレット端末の画面上にゲルを置き食品の映像と共になめて体験するタイプ。
3つ目は、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着した状態でもハンズフリーで体験できるように、口に当てた状態のまま首の後ろに固定するウェアラブルタイプ。それぞれ用途にあった使い方ができるだろう。
特筆してるのは、味の編集が可能な独自開発のソフトウェアだ。読み込んだ動画に対応する基本五味の分布をタッチペンで操作するユーザーインタフェース、分布を直感的に変更するだけで動画編集をするかのように味の編集が行える。
この編集方法により、さまざまな副産物が生まれた。味の変化を高速に行えることから、実世界の食べ物では表現しきれない時間軸で複雑な味の流れを生成でき、また味と味の間の変化はクロスフェードも可能なことから味のフェードイン、フェードアウトも行える。クロスフェード中に違う味を感じる現象も確認できたという。
このように遠隔で味を提供できるだけでなく、動画のテロップや効果音と同じように、味を使った特殊な表現が行える。さらに宮下研究室は、これまでの電気味覚研究およそ30本の電気刺激で利用された刺激波形の再現や、それらを編集した新規の刺激波形による効果を検証するためのシステムも提案し発表している。
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