人体組織にデータを書き込み、体外へ無線送信する技術 米国とベルギーの研究チームが開発:Innovative Tech
米国とベルギーの研究チームは、体内の医療用インプラントからデータを送信する際に、人体組織内のイオンにデータを書き込み、体外の受信機にデータをワイヤレス送信するイオン通信技術を開発した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
米コロンビア大学、ベルギーのGhent University、米Columbia University Medical Centerによる研究チームが開発した「Ionic communication for implantable bioelectronics」は、体内の医療用インプラントからデータを送信する際に、人体組織内のイオンにデータを書き込み、体外の受信機にデータをワイヤレス送信するイオン通信技術だ。
心臓や脳、その他の臓器の活動をモニターし、医師に問題を知らせる埋め込み型電子機器は、医療にとって重要なものだ。しかし、埋め込み型電子機器が取得した生理学的信号を体外に安全で効率的かつ長期的に送信することは意外に難しい。
外部伝送は、その簡便さと高いデータレート容量からケーブルによって行う手法が採用されている。しかしこのアプローチは、組織を横断する部品を必要とするため、慢性的な病気での長期使用には限界がある上、組織内に電線を通すと感染の危険がある。
一方で、光、超音波、Bluetoothなどのさまざまな無線技術も試されているが「消費電力が大きい」「生体適合性がない」「不安定」「効率よく人体組織に浸透しない」などの理由から最適な方法は見つかっていない。
研究チームは、細胞はイオンを交換して互いに通信しており、人体組織内には電位エネルギーが蓄積されていることに着目。この研究では、人体組織内のイオンを介して埋め込み型電子機器で取得した信号を外部の受信機へ無線伝送する新しい通信技術を提案し、これらの課題に取り組む。
このイオン通信システムでは、まず埋め込み機器からのデータを交互の電気パルスでエンコードできる一対の電極を組織内に埋め込むことから始まり、次にそのエネルギーを組織内のイオンに蓄積する。もう1組の電極を皮膚などの組織表面に設置し、蓄積されたエネルギーを受け取り、データをデコードする。
この技術を使えば、皮膚下約10cmまでの深さの組織を通してデータを送信することができ、信号の損失が少なく、低電力で動作し伝送速度も類似の他の技術よりも速く送れるという。
実験では、イオン通信システムと神経インタフェースインプラントを組み合わせて、生きたラットでテストを行った。その結果、数週間にわたり、この埋め込み型電子機器は外部の受信機に正常にデータを非侵襲的に送信することができ、個々の神経細胞からの信号を拾うのに十分な精度を有していたという。
Source and Image Credits: Journal Article, Zifang Zhao, George D. Spyropoulos, Claudia Cea, Jennifer N. Gelinas, and Dion Khodagholy “Ionic communication for implantable bioelectronics” Science Advances 6 Apr 2022 Vol 8, Issue 14
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