ローカル5Gで固定回線「NURO Wireless 5G」、大手キャリアの5Gホームルーターとの違いは?
ソニーワイヤレスコミュニケーションズが4月1日から提供している、ローカル5Gを利用したインターネット接続サービス「NURO Wireless 5G」。大手キャリアが提供する、5Gを固定回線の代わりとして使うルーターとは何が違うのか。
ソニーワイヤレスコミュニケーションズが4月1日から提供している、ローカル5Gを利用したインターネット接続サービス「NURO Wireless 5G」。月額料金は4950円で、基地局と利用者宅のホームルーター間をローカル5Gや無線LANを用いて接続する仕組みだ。
同社によれば、ローカル5Gの商用免許で住宅向けの固定通信サービスを提供するのは日本初という。発表時にも話題になったが、一方でローカル5Gの知名度がまだ高くないこともあり、NTTドコモの「home 5G」など、5G回線を固定回線代わりに使うサービスと何が違うか分からないとする声もあった。
そこで今回は「NURO Wireless 5G」と、大手キャリアサービスが提供する5Gルーターを比較。制度面・サービス面での違いを確認する。
そもそも「ローカル5G」って何?
そもそもローカル5Gとは、企業や自治体が自らの土地や建物に基地局を設置し、企業や自治体が自ら、またはシステム運用を担う企業などを免許人として、自営サービスの運営に活用することを想定したシステムだ。
NURO Wireless 5Gにおいては、サービスを提供するマンションなどの集合住宅に設置する基地局と、利用者宅に設置するホームルーター間の“ラストワンマイル”区間の接続にローカル5Gを活用する。帯域は5G向けの4.8〜4.9GHz帯(n79)の100MHz幅だ。
総務省の「新世代モバイル通信システム委員会」によれば、全国サービスを提供する移動体通信事業者(ドコモ、KDDI、ソフトバンクなど)が提供するキャリア5Gとローカル5Gの違いは大きく分けて二つという。
1つ目はすでに説明した通りで、企業や自治体が自らの土地や建物に基地局を設置する点だ。もう一つは、地域における小規模なニーズに基づき、小規模な通信環境を構築することを想定している点だ。実際、総務省が公開しているローカル5Gの免許申請者や免許人は、通信関連の企業に加え、大学、国土交通省、自治体などが多い。
こうした面から見ると、企業が一般の消費者に固定回線サービス(FWA)を提供するためにローカル5Gを利用するNURO Wireless 5Gは、ローカル5Gの利用事例としては少々変わっているといえそうだ。利用者視点では、モバイルネットワークを使ったFWAサービスという点でキャリア5Gのサービスと同様だが、細かい点ではいくつか違いがある。
通信キャリアの5Gルーターとは通信の安定度に差
「NURO Wireless 5G」の通信速度は、下り最大4.1Gbps、上り最大2.6Gbps。キャリアのホームルーターと比べると、上り通信速度が高速なのが特徴といえる。
モバイル通信事業者のサービスは、基地局からの距離や、サービスを利用するユーザー数の多さなどによって通信品質が変動する。ユーザーが移動することで接続する基地局が切り替わったり、イベントなどによって人が集中すると、特定エリアでのトラフィックが集中したりと、通信品質が安定しないことがある。
一方でNURO Wireless 5Gは、建物内に設置した基地局を用いて、限られたユーザーにサービスを提供するので、キャリア5Gと比べて通信品質が安定しやすい。
一方でサービスエリアには注意点も
ただし、建物単位で基地局を設置するゆえの弱点もある。サービスが使えるエリアだ。NURO Wireless 5Gの4月時点でのサービスエリアは、東京都、神奈川県、大阪府の一部地域。今後、北海道、千葉県、愛知県、静岡県、岐阜県、三重県、京都府、兵庫県、奈良県、福岡県、佐賀県の一部地域に拡大する予定だ。
しかし、エリア内だからといって、必ずサービスが使えるとは限らない。NURO Wireless 5Gはマンションの敷地内などにローカル5Gの基地局を設置して、建物単位でエリア化する仕組みだ。先述したサービスエリアは、あくまで基地局が設置できる場所にすぎない。
つまり、同じエリア内でも「隣のマンションは基地局があるのでサービスが使えるが、自分の住むマンションは使えない」というケースもあり得るわけだ。
一見キャリア5Gより不便そうに思えるが、この仕様にはソニーワイヤレスコミュニケーションズの狙いが隠れている。ソニーワイヤレスコミュニケーションズはNURO Wireless 5Gのサービスとしての位置付けを「光ファイバーを配線できない建物向けに提供したい」と説明している。
つまり、そもそも集合住宅のうち、光ファイバーによるサービスが提供可能な建物はターゲットではない可能性があるわけだ。ソニーグループはすでに「NURO光」などを提供しているが、集合住宅などの中には回線を引けないところもある。NURO光で対応できない隙間をNURO Wireless 5Gで対応する、という戦略かもしれない。
「持ち運び対応のタイプの製品やサービス」の可否も差に
NURO Wireless 5Gにはもう一つ、大手通信キャリアの5Gルーターとの違いがある。それは、持ち運び対応のタイプの製品やサービスが生まれる可能性だ。
現状、NURO Wireless 5Gはルーターが据え置きタイプであり持ち運びはできない。規約でも、ルーターを移動させることを禁じている。ただし、制度上は大手通信キャリアの5Gルーターより、持ち運び対応の製品・サービスを開発しやすい状況にある。
総務省はNTTドコモなどの通信事業者に対し、ローカル5Gの帯域と移動体通信事業者向けに割り当てた5Gの帯域をキャリアアグリゲーション(複数の周波数帯を同時に使いデータ通信を可能にすること)することを禁じている。つまり、全国サービスのキャリア通信が使えない場所をローカル5Gで補うことができないわけだ。
逆に、ローカル5Gのサービスを補完することを目的に、移動体通信事業者向けの帯域を利用することは認めている。総務省は一例として、ローカル5G利用者が、ローカル5Gエリア外へ端末を持ち出した際に、移動体通信事業者のネットワークを利用するといった使い方を挙げている。
つまり、制度上は「自宅や事務所での通信はローカル5Gで、外出時はドコモなどの5G/4Gネットワークで」──というコンセプトで、NURO Wireless 5Gに持ち運び対応タイプの製品やサービスを追加できるわけだ。
事実、ソニーワイヤレスコミュニケーションズはNURO Wireless 5Gをローカル5G事業の第1弾と位置付けている。実際に持ち運び型のサービスが出るかはまだ分からないが、少なくとも今後、ローカル5Gを活用したさらなる展開があることは期待してよさそうだ。
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